コラム

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更新日: 2024年9月25日

タイの卸売業と小売業

監修弁護士 川村 励 弁護士法人ALG&Associates バンコクオフィス 所長

タイの小売部門は、特に、1997年の金融危機および外国人投資家に提供された小売部門と卸売部門の両方に関わるチャンスの結果として、近年、より徹底的にグローバル化が進みました(ムテビ、2007)。

これらの部門においては法制度が外国人運営者に完全な自由を許可していないので、外国人運営者は別の方法で現地企業と提携して業務を続けています。

タイの小売市場と卸売市場について

2021年、卸売業と小売業は多くの課題に直面しました。数年続いたCOVID-19(新型コロナウィルス)の状況により、経済は低迷しました。

複数のタイの銀行の予測によれば、2022年のタイの卸売業と小売業全体の成長率は前年の8.5%から減速し5%になりました。これは国内経済の低迷に起因するものです。

更に、現代小売業(モダントレード)の到来は卸売業への依存を低下させました。現代小売業は製造業者や販売店と直接交渉する権限を有する支店の大規模ネットワークを持つ大資本グループだからです。

これは、従来の卸売業に自社のビジネスモデルを調整するよう影響を与えました。

企業に対する販売(B2B)に重点を置いた従来の卸売業から、一部の卸売市場での最低発注数量減少により一般顧客に対してもっと販売することに重点を置く卸売業へとビジネスモデルを調整しました。

それは、僅か3品の最低購入量の設定や、特定の最低量まで店内の品揃え商品の購入を顧客に許可することかもしれません。

この方法により、卸売業がより容易に一般顧客を開拓することができ、顧客はより容易に卸売価格で商品を購入することができます。

代理店や小売店を通じて購入する必要はありません。換言すれば、卸売業のビジネスモデルはより「B2B2C」(企業 対 企業 対 顧客)に変化しました。

その利点は、一般顧客を開拓できることや、一般顧客に直接、広告宣伝や値引きを提供できることです。

卸売業の運営者は、最終利用者(エンドユーザー)からデータを収集し、傾向を分析することができるので、消費者ニーズに合致する商品を生産・選択することができます。

特に、このコロナ期間中、オンラインショッピングや電子商取引のプラットフォームは、現代消費者の物品やサービスの購入の主な流通経路になりました。

それ故、卸売業は様々なデジタルプラットフォームや市場を通じて自社の市場を拡大するチャンスを与えられています。

それは市場における競争を大いに加速するので、小売業に影響を与えています。

タイがテストマーケティングに良い場所である理由

タイが卸売業と小売業を始めるのに良い場所である5つの理由

アジアへの玄関口

タイは東南アジア地域に位置する国で、ミャンマー(ビルマ)、ラオス、カンボジア、マレーシア等の近隣諸国と接しています。

それ故、タイはこの地域の他の国々への便利な「リンク」として機能する戦略的な位置にあると見なされており、特に輸出業における国際商取引をより容易にしています。

更に、タイはアセアン(ASEAN:東南アジア諸国連合)の創設メンバーの一員であり、国において企業が支払うべき輸入税を軽減するアセアン自由貿易地域の形成と発展に積極的に取り組んできました。

タイはアジアの十字路に完全に位置しており、2021年時点で6617万人(出所:BOI(タイ投資委員会))を超える国内消費者市場を含む、地域のダイナミックな市場に容易にアクセスすることができます。

「事業のしやすさ」ランキングで21位のタイ

世界銀行は毎年、国内組織と中規模組織を対象に、タイを含む世界190カ国における「事業のしやすさ」に関する調査を行っています。

このランキングで、2020年(入手可能な最新調査)、タイは190カ国中、第21位です。総合得点で86.8点を獲得した第1位のニュージーランドと比較すると、タイは80.1点で比較的高い得点です。

更に、タイは以下のような様々なテーマに関して称賛すべきスコアも獲得しています。

  • 事業の開始:92.4点
  • 越境貿易:84.6点
  • 事業税の支払い:77.7点

更に、フォーブス誌は2020年の第8位のベスト新興市場としてタイを掲載しました。これは、外国企業や外国人投資家にとってタイが東南アジアで最も成功している国の1つであることを示しています。

COVID-19にもかかわらず、成長し続けるタイ経済

私たちは皆、COVID-19の世界的流行がすべての部門にわたって企業を混乱させたことを知っています。その結果、タイのGDP(国内総生産)は2020年、6.2%低下しました。

この状況はアジア金融危機以来で最大の経済縮小です。しかし、このような景気後退にもかかわらず、2021年末、タイはGDPを1.6%回復することができました。

COVID-19のオミクロン変異体が依然、深刻な問題であるにもかかわらず、タイ経済は、財政政策、輸出、外国企業投資に牽引され、2022年は3.5~4.5%成長すると予想されます。

上述のように、タイ経済は回復基調にあり、確実に勢いを増し続けており、タイで事業を始めることはかつてなく容易になっています。

タイで卸売業や輸出業の立ち上げを計画している起業家にとっては、今がその最も良い時期です。

高い輸出可能性を有するタイ

タイは、GDPの65%を輸出で稼ぐ「輸出志向」経済の国として知られています。

情報によれば、タイは、物品とサービスの輸出額が2021年12月時点で2700億米ドルを超え、世界第24位です。同様に、タイの国別輸出先の上位3カ国は以下の通りです。

  • 米国:15%(344.0億米ドル)
  • 中国:13%(297.6億米ドル)
  • 日本:10%(228.8億米ドル)

更に、輸出品の大部分は製造業者または卸売業者により卸売価格で取引されているため、タイの卸売業は輸出業との関係によって成長することができます。

それ故、タイの卸売業は自社事業を国際的に拡大するチャンスを得ています。従って、タイが卸売業と輸出業を拡大するための完璧な場所の1つであることは否定できません。

外国人投資向けのタイ政府の支援とインセンティブ

多くの外国人起業家がタイで事業を開始することを期待している理由の1つは、タイ政府が支援とインセンティブ(優遇措置)を提供していることです。

タイ投資委員会(BOI)は投資家に対して、国家の開発目標を達成する活動に対して、幅広い様々な税制上の優遇措置、支援サービス、免税・減税措置を提供しています。

タイのBOIは、ビザと労働許可のための「ワンストップサービスセンター」の提供にも関与しており、このセンターを通じて、BOIが奨励する企業の外国人スタッフは労働許可と長期滞在ビザをより容易にかつ短い時間で取得することができます。

輸出部門については、国際貿易推進局(DITP)がタイで輸出業を開始する個人に対して、不可欠な支援とその他多くのサービスを提供しています。

小売/卸売部門における日本企業の状況

小売業と卸売業は日本では最大の産業の1つであり、国内総生産(GDP)の10%超に着実に貢献しています。卸売市場は近年低迷していますが、小売市場は上昇基調にあります。

これは、革新的な小売技術、サプライチェーンの拡大、店舗状況の変化に企業が適用せざるを得ないからです。

かつては、消費者に物品を届けることは、しばしば卸売部門の支援を受けて、製造業者から小売店への直接的な一方通行でした。

しかし、流通チャネルの多様化により、製造業者自身が小売業者になり、小売店が通信販売サービスプラットフォームになるという複雑なシステムへ変貌を遂げました。

タイの小売部門と卸売部門に参入する企業の課題

国内での競争に加え、タイに進出する外国企業は小売卸売業を継続し、この業界で働く必要のある労働者数に関する熾烈な競争と問題に影響を与えています。

タイの小売部門と卸売部門に関する外国投資制限

「1999年 外国人事業法」の下では、タイにおいて卸売業または小売業を開始する外国投資に禁止事項があります。但し、最低資本要件に基づく例外があります。

更に、小売業と卸売業における外国企業の関与条件は同じではありません。それに加えて、その他の最低資本要件の法的必要性により、問題はもっと複雑です。

同法は卸売業と小売業の区別を定めていません。他方、DBD(事業開発局)は2015年7月の助言的意見においてその問題に取り組みました。

タイにおける小売業または卸売業の開始:付属書3の(14)による法的分類

外国企業が自社で生産せず、手数料を受け取る代理店(セールスエージェント)経由での商品の販売は「小売業」のカテゴリーに該当します。この状況は、小売チャネルの可能性の1つとして代理店を活用した、消費者に対する物品の直接販売として分類されます。

付属書3の(15)は、外国企業が自社で生産せず、販売店(ディストリビューター)経由での商品の販売は「卸売業」のカテゴリーに該当する、と定めています。

外国人事業法によれば、外国企業が自社商品用の広告を作成するために別の企業を起用し、サービス料を支払う場合、当該商品の価値は当該サービス料に等しくなります。その活動に外国人事業ライセンスは必要ありません。

外国投資制限を免除される場合

以下の場合は外国投資制限を免除され、市場に参入するために100%の外国資本が許可されます。

  • 小売部門および卸売部門の最低資本要件を満たしている場合。
  • 商務省から外国人事業ライセンスを取得している場合(困難と考えられます)。
  • BOIの承認を得ている場合。
  • 51%のタイ資本で合弁企業を設立する場合。

小売業に関するその他の規制

小売業と卸売業に関する主要法である外国人事業法に加えて、本件に関する以下のようなその他の法律があります。

商業登記

小売業と卸売業を継続するためには、商務省の事業開発局(DBD)に登録して法人を設立しなければなりません。

事業ライセンス

外国企業または外資系企業は、外国人事業法の付属書のリスト3で定めた事業であるため、タイで事業を開始する前に事業ライセンスを申請しなければなりません。

但し、最低資本が卸売業で1億バーツを超える場合または小売業で3億バーツを超える場合、事業ライセンスの取得を免除されます。

バンコクにおける開店制限

バンコクでの開店には制限がありませんが、バンコク圏では小売店が高度に集中しており、開店のための場所が限られている可能性があるので、開店する前に適切な場所を探すことをお勧めします。

小売労働者に関する制限

自社の従業員が外国から来た外国人である場合、その企業は外国人従業員1人当たり最低200万バーツの払込登記資本金を有していなければならず、かつ、外国人従業員1人当たり最低4人の他のタイの従業員を有することを保証しなければなりません。

これらの要件が当該外国人従業員のビザと労働許可のプロセスに影響を与えるからです。

タイで開店する際の土地所有権

タイの土地法の下では、外国人は個人または法人を問わず、土地の所有権を取得できませんが、土地または建物のリースは依然として外国人にも許可されています。

また、バンコクや他の省において、軍人による運用または国家機密のためにのみ許可される土地に関する制限があります。

但し、BOIが奨励する企業、および、タイ工業団地公社(IEAT)が承認した工業団地に所在する企業もしくは当該団地で事業運営する企業には、外国投資比率に関係なく、土地の取得が許可されます。

現地企業との業務提携の重要性

強力な現地パートナーの利用可能性は、外国企業がタイで小売業と卸売業を運営する際に事業の成功を決定し、優位性をもらたす要因の1つです。

外国人の事業運営をより円滑にし、販売活動において他のバイヤーとの関係性を強めるのに役立つ様々な形態の提携(合弁事業、フランチャイズパートナー、現地卸売パートナー等)があります。

タイに進出する小売企業と卸売企業への支援

私たちは、タイにおいて小売業または卸売業を継続する企業および同業界においてタイ市場に参入する企業のスタートを喜んで支援します。

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