解雇
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監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
同じ新入社員でも、新卒採用者と中途採用者では会社が期待するポイントは異なります。
新卒採用者は、将来的に活躍して欲しいという未来への期待ですが、中途採用者は即戦力になって欲しいという現在への期待が多いでしょう。
中途採用では、今までの経験や能力を考慮した採用となるため、その能力が不足している場合には、解雇を検討せざるを得ないケースもあります。
本稿では、中途採用者の解雇についての注意点や、解雇が正当となるポイントを判例とあわせて解説していきます。
目次
中途採用者を能力不足で解雇することはできる?
中途採用では、資質だけで無く、今までの経験や能力を考慮して採用することが一般的です。
労働条件もその能力等を加味した内容になることが多いでしょう。
しかし、当初期待していた能力が不足している等があれば、採用の目的を達成できません。
そのため、中途採用者の解雇理由には能力不足が多く見られます。
能力不足での解雇は容易ではありませんが、新卒採用者に比べると中途採用者は判例でも認められやすい傾向にあります。
ただし、中途採用者であれば、常に能力不足が正当事由になるというわけではありませんので注意しましょう。
中途採用者を能力不足で解雇する場合の注意点
能力不足による解雇が認められるには、会社の期待が合理的であることが必要です。
その能力が無いなら採用しなかった、ということが客観的に分かるようにしておくとよいでしょう。
契約書の業務内容欄等に求める成果や能力などを記載しておくと、会社の採用時の期待値を明確にすることができます。
特定のスキルを前提とした採用であったことが証明できれば、その能力が無いことによる解雇は妥当性が認められやすい傾向があります。
しかし、中途採用者であっても単なる業界経験者などの場合は、新卒採用者と同様の判断になる可能性がありますので注意しましょう。
特定のスキルを評価した採用でない場合の解雇については、会社が十分に改善指導したのかという点が特に重要になります。
中途採用者の能力不足が問題になるケース
中途採用者の能力不足による解雇はどのようなときに起こりやすいでしょうか。
以降で代表的なパターンについて注意点を含めて解説していきます。
会社側の過度な期待があった場合
中途採用者の能力不足で解雇するには、採用段階で、中途採用者が伝えた内容を会社が正しく認識していることが大切です。
もし、中途採用者が正確に伝えていたにもかかわらず、会社が勘違いしていたり、過度に期待してしまった等の落ち度があれば、能力不足を理由とした解雇は認められにくいでしょう。
会社が重要視する経験等については、面接の際に詳細を確認するなど、会社側も中途採用者の能力を正確に把握するよう努めなければなりません。
労働者の能力に誇張や虚偽があった場合
面接等で印象をよくするために話を膨らませてアピールする行為は、求職者からすれば悪気なく行っているのがほとんどでしょう。
しかし、特定のスキルがあるようにみせたり、未経験の内容を経験があるなどと申告することはアピールではなく、詐称ともいえます。
もし、採用で重視する能力や経験について過度な誇張や虚偽があれば、能力不足を理由とした解雇は認められやすいでしょう。
採用段階で、職務経歴書やプレゼン資料など、本人の申告内容に関する資料の提出を求めておくと客観的なエビデンスになり、虚偽の発覚にも繋がります。
本人の申告に不審な点があれば、過去の勤務先に問い合わせするなどを検討してもよいでしょう。
労使間で求める能力の性質が異なった場合
虚偽の説明等がなくても能力の認識に対する食い違いは発生します。
たとえば、職歴書の管理職経験だけをみて、マネジメント能力ありと判断する等が該当します。
プレイヤーとしての評価から役職につくケースもありますので、入社後にマネジメント能力がほとんどないといったギャップが発生するかもしれません。
しかし、中途採用者が故意に自身の能力を誤認させたわけではないので、解雇するには、能力不足が客観的に明確である必要があります。
前職で素晴らしい実績があったとしても、それは前職でのみ通用するスキルであった可能性もあります。
以前の実績やパフォーマンスを期待するのであれば、入社後の目標値など、会社が求める能力を分かりやすく設定して中途採用者に明示しておきましょう。
目標(=期待する能力)と実績(=実際の能力)を数値化することで、能力の差異を客観的に評価することが可能になります。
中途採用者の職歴などの経歴詐称による解雇はできる?
経歴詐称=解雇有効ではありません。その経歴詐称がなければ雇用しなかったといえる妥当性がある場合に、解雇が有効となります。
通常、以下のようなポイントを総合的に判断することになります。
- 採用の際に重視した能力やスキルについての詐称有無
- 詐称内容や、その程度
- 企業秩序への影響の程度
特に技術的、専門的な業務に関する資格有無の詐称などは、重大な経歴詐称となり得ます。
この場合には、信頼関係の破壊ともいえますので、より解雇は認められやすくなるでしょう。
詐称内容に関する事実関係を調査し、証拠を確保する必要があります。
履歴書などの書類はもちろん、面接記録なども残しておくようにしましょう。
卒業証明書、年金記録、合格証書などによって学歴や職歴、資格有無などの確認が可能です。
試用期間中でも中途採用者は解雇できる?
中途採用者の試用期間は、職場環境に慣れてもらい、本来のパフォーマンスを発揮してもらうための準備段階といえます。
そのため、試用期間中の成績を能力不足の根拠として解雇するのは、期間満了時に比べると厳しい判断となる可能性がありますので、できるだけ避けた方がよいでしょう。
試用期間満了直前まで指導教育し、終了時に本採用の可否について判断することをおすすめします。
ただし、採用時に必要としていた資格やスキルが無かった、などの場合は重大な職歴詐称ともいえますので、試用期間中の解雇を検討することもできるでしょう。
不当解雇とならないための対処法
不当解雇とならないためには、解雇に至るまでのプロセスが大切です。
事前に中途採用者に対して、会社が求めるパフォーマンスを目標値などで明確に示しておきましょう。
数値化することで期待と実態のズレを客観的に示すことができます。
ただし、入社直後は環境に慣れておらず、十分な能力が発揮できないこともあります。必ず試用期間を設け、本来の能力を見極める期間としましょう。
残念ながら能力不足であった場合も、試用期間満了時の本採用拒否は、本採用後の解雇よりも認められやすい傾向があります。
この点でも試用期間を設ける意義は大きいといえます。
また、解雇理由についても単に「能力不足」とするのではなく、明確に提示しましょう。
どのようなスキルを重視し、採用したのか。期待と実態のズレの改善をどのように求めたのか、など経緯を含めて説明できるとよいでしょう。
解雇の前に、退職勧奨を検討することも有効な手段です。
中途採用者の解雇に関する判例
中途採用者の解雇は裁判でどのような点を重視して判断されるでしょうか。
中途採用者の能力不足による解雇を正当とした裁判例、不当とした裁判例をそれぞれご紹介します。
解雇が正当と判断された判例
(平成31年1月11日・平成29年(ワ)第7083号・東京地方裁判所・社会福祉法人どろんこ会事件)
社会福祉法人Yは、その職歴からマネジメント能力や事業推進への寄与を期待できる即戦力と判断し、Xを部長として中途採用しました。
契約書の業務内容には、事業全体のマネジメント及び事業推進への寄与が明記されていました。
しかし、試用期間中にXは、職員に対して精神的圧迫を与えるなどパワハラに該当する行為を繰り返し、Yに関する虚偽の事実を一般に流布するなど行い、さらに、Xが提出した履歴書には複数の職歴で、重大な虚偽内容が記載されていることも発覚しました。
Yは、部長職としてXは不適格であるとして、本採用拒否としました。Xは不当であると訴えましたが、裁判所は即戦力の管理職としての採用であったことや、その経歴等を見込んだ高待遇の条件であることなども含め、本採用拒否は有効と判断しました。
解雇が不当とされた判例
(平成24年10月5日・平成23年(ワ)第8573号・ブルームバーグ事件)
Xは、日本の通信社で13年間記者として勤務していた実績があり、外資系通信社であるY社でも記者として中途採用されました。
入社後1年の評価として、Xは「期待に満たない」との評価を受け、Y社から改善プランを提示されました。Xはこの課題をすべて達成しましたが、その後も記事の質や本数などで低評価を受け、Y社から能力不足を理由として解雇を言い渡されました。
裁判所は、Xは即戦力として採用されたものの、Yと前職にはビジネスモデルに違いがあり、前職とは求められる能力等に異なる面があると認定しました。
また、Yが採用選考において基準を設定したり、試用期間中に審査・指導等の措置を講じていない点にも言及しています。
低評価は受けたものの、指導による改善傾向があり、課題をすべてこなすなどXにも意欲の姿勢がみられるとして、能力不足による本件解雇を無効と判断しました。
中途採用者の解雇でお悩みの場合は弁護士にご相談下さい
中途採用者には、即戦力として活躍してもらいたいと期待しての採用がほとんどでしょう。
その能力が期待外れであれば、会社は能力不足として解雇に踏み切りたいところです。
しかし手順を誤れば不当解雇と判断される可能性もあります。
中途採用者は高い給与待遇で契約しているケースも多く、もし不当解雇となればその金銭的負担は通常以上に大きくなるリスクもあります。
会社としての大きな期待が大きな損失に繋がらないよう、解雇は慎重に行いましょう。
解雇には法的判断が必要となる難しい事案も多いため、まずは弁護士へご相談ください。
弁護士法人ALGでは解雇を含む様々な労務問題に精通した弁護士が多数在籍しています。
会社それぞれの事情を踏まえたアドバイスが可能ですので、お気軽にお問い合わせください。
この記事の監修
弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
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