株式買取交渉とは|自社株を買い取るメリット・流れ・注意点など

監修
弁護士 家永 勲

弁護士法人ALG&Associates執行役員

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会社経営陣が自社株を買い取る株式買取交渉は、経営権の強化や株主構成の最適化を図る重要な手法といえます。

自社株式の集中は、意思決定の迅速化や経営の安定化をもたらし、長期的な成長戦略をスムーズに実現し得るでしょう。

しかし、株式の買取には、適正な買取価格の決定や法的手続きの遵守など、慎重な対応が必要となる場面が様々あります。

適切な手続きを怠ると、法的リスクを伴い、結果的に会社運営に重大な影響を及ぼしかねません

株式買取交渉を行うには、入念な計画はもちろん、正しい知識を備えておくことが大切です。

本稿では、株式買取交渉のメリットや具体的な手続きの流れ、注意点について詳しく解説しています。

株式買取交渉を成功させ、企業戦略を高めるための参考としてご活用ください。

株式買取交渉とは

株式買取交渉とは、会社の経営者が既存の株主から自社の株式を買い取るために行う話し合いのことです。

目的は様々ですが、経営権の集中、敵対的株主の排除などが挙げられます。交渉の中心となるのは、株式の買取価格でしょう。

適正な価格設定は、株主との合意形成において最も重要であり、会社経営陣と株主双方にとって公平な評価額を算定する必要があります。

また、注意すべきは価格交渉だけではありません。株式の買取手続きそのものも非常に重要です。

会社法に則った手続きを怠ると、後々、株主から買取の無効を主張されるリスクや、会社法違反による責任追及を受けるリスクを伴います。

特に、取締役会決議や株主総会決議が必要な場合の手続き漏れなどは、会社にとって重大なリスクとなりかねません。

手続きの不備は信頼の失墜や追加のコスト発生を招くため、慎重かつ正確な対応が必須といえます。

株式買取交渉により自社株を買い取るメリット

株主から自社株を買い取るメリットは会社の事情によって様々ですが、一般的には以下のようなメリットが考えられます。

  • 議決権割合のコントロール
  • 株主総会の省略
  • 株主代表訴訟リスクの回避
  • 相続における株式分散の回避

各メリットについて以降で詳しく解説していきます。

議決権割合のコントロール

自社株式の買取は、会社の経営に対する影響力を高める手段となり得ます。

経営者に自社株を集中させられれば、株主総会における提案の可決を容易にし、経営戦略を迅速かつ確実に実行できるようになります。

経営戦略に反対する少数株主がいる場合や、敵対的買収の可能性がある場合などに有効な手立てとなるでしょう。

もし、経営者個人に買取資金が無い場合は、会社が自己株式を買い取ることも法的要件を満たしていれば可能です。

ただし、会社が保有する自己株式は議決権を有しないため、会社による自社株式買取は直接的に経営権を高めるわけではありません。

しかし、自社株式を買い取ることで、既存の株主構成を変化させることはできます。

会社にとって有益な既存株主の議決権比率を高めることができれば、間接的に会社経営の安定化に大きく貢献することになります。

株主総会の省略

自社株式の買取によって株主構成を簡素化し、最終的に株主が経営者自身、または経営者の意向に沿う幹部のみとなった場合には、株主総会の省略が可能となります。

これは、会社法に定められた書面決議制度の活用によるものですが、特に中小企業にとっては大きなメリットといえるでしょう。

株主総会の省略ができれば、招集通知の発送、議事録の作成、開催場所の確保といった煩雑な手続きが不要となり、経営判断を迅速に行えるようになります

特に、急を要する経営課題などがある場合には、非常に大きなメリットとなるでしょう。

次に、コスト削減効果も期待できます。本来であれば、株主総会の準備にかかっていた人件費、会場費、印刷費などの費用を削減することができます。

書面決議には株主全員の同意が必要であるため、事前に確認しておきましょう。

株主代表訴訟リスクの回避

株主の中には、経営判断に不満を持つ株主や、経営方針に異議を唱える株主もいます。これらの株主から自社株式を買い取ることは、株主代表訴訟のリスクを軽減することに繋がります。

株主代表訴訟とは、会社が大きな損失を出した場合などに、株主が会社の取締役等の責任追及を行う訴訟のことです。

経営陣の責任を追及するものであり、訴訟提起自体が会社の社会的信用の低下などを招くおそれがあります。

株主代表訴訟のリスクを回避することができれば、経営陣は訴訟に時間や労力を費やすことなく、本業に専念し、より自由な発想で経営戦略を実行できるようになります。

ただし、株主代表訴訟のリスクを回避するためだけに、不当な価格で株式を買い取るなどがあれば、株主の権利侵害とみなされる可能性があります。

株主代表訴訟リスクの回避は、あくまで健全な会社経営を追求した結果として得られるメリットであるべきでしょう。

相続における株式分散の回避

相続が発生した場合、後継者以外の親族に自社株式が分散してしまうと、経営権の分散や親族間の対立、意思決定の遅延など、事業承継が円滑に進まなくなるリスクがあります。

自社株式の買取は、このような相続による株式分散リスクを回避し、事業承継をスムーズにすることができます。

具体的には、相続発生前に経営者が保有する自社株式を買い取ることで後継者に株式を集約させておけば、相続後の経営権を集中させることができます。

また、譲渡制限株式については、定款に相続人に対する売渡請求の定めを設けておくことで、相続発生後に、後継者以外の相続人が取得した株式を会社が買い取ることが可能になります。

ただし、相続人に対する売渡請求を行うためには、定款への定めだけでなく、株主総会での特別決議が必要となります。

また、相続人との間で株式の評価額について争いが生じるリスクもありますので、弁護士等の専門家へ相談し、慎重に判断することが大切です。

相続人に対する売渡請求については、下記ページで詳しく解説しています。

さらに詳しく相続人に対する株式の売渡請求の流れや注意点・事前対策について

株式買取交渉の流れ

株式買取交渉は、計画的かつ段階的に進めることが重要です。初期段階では買取の意向を明確にし、価格や条件について株主と協議します。

合意が得られ次第、法的手続きを踏んで契約を締結し、株式の譲渡を正式に承認します。最後に、株主名簿の変更を行い、所有権の移転を完了させます。

各ステップについて以降で詳しく解説していきます。

①買取の提案

株式買取交渉の第一歩として、会社経営陣は買取を希望する株主に連絡を取り、具体的な提案を行います。

この際、円満な合意を目指すためにも、誠実かつ明確なコミュニケーションを心がけましょう。

株主が判断しやすいように、提案内容は、買取価格や支払い条件、取引のスケジュールなど詳細に記載しておきます。買取を成功させるには、株主が納得できる条件を提示することが重要です。

さらに、株主に疑問や懸念があれば、誠実に回答し、信頼関係を築くよう努めなければなりません。

必要に応じて、弁護士等の専門家のアドバイスを受けながら、法的側面や市場動向を踏まえた合理的な提案を行うようにしましょう。

②価格交渉

譲渡制限株式をはじめとする非上場株式の買取価格は、上場株式のように市場価格が存在しないため、基本的には当事者間の交渉によって決定します。

後々のトラブルを避けるためにも、提示する金額は客観的な根拠に基づいた適正な価格を算定しなければなりません

しかし、非上場株式の算定方法には決まりがないため、適正価格の算定は容易とはいえません。

もし、株式の本来の価値よりも著しく低い価格で買い取った場合、買取価格と適正価格の差額がみなし贈与と判断され、買主は贈与税の支払が必要となる可能性があります。

また、売主(株主)には、株式の譲渡によって得た利益に対して譲渡所得税が発生します。

このような影響を考慮せずに価格交渉を進めてしまうと、思わぬ負担が発生するおそれがあります。

③株式譲渡契約書の作成

買取価格をはじめとする諸条件について株主との間で合意が成立したら、その内容を明確にした株式譲渡契約書を作成します。

株式譲渡契約書とは、株式の譲渡に関する当事者間の権利義務を定める文書です。

具体的には、譲渡する株式の種類と数、譲渡価格、支払い方法、譲渡日、契約解除の条件、表明保証など、合意内容を詳細に記載します。

契約書は、合意内容の齟齬を防止するだけでなく、後々の紛争を予防するために重要な役割を果たします。

法的には口頭による合意も可能ですが、言った言わないの水掛け論になるリスクを伴います。

株式譲渡契約書を作成することで、合意内容が客観的にも明確になり、契約違反が発生した場合でも、法的根拠に基づいて権利を主張することができます。

④株式譲渡承認請求

多くの中小企業では、株式の譲渡に際し(会社自身が自社株式を取得する場合を除く)、会社の承認を得る必要がある旨が定款で定められています

これは、譲渡制限株式と呼ばれ、経営に馴染まない者による株式取得を制限することで、経営の安定化を図るための制度です。

そのため、株式譲渡を実行する前に、必ず会社の定款を確認し、譲渡承認の手続きが必要かどうかを確認しましょう。

承認機関は、定款の定めによって異なりますが、株主総会または取締役会が一般的です。

譲渡承認請求を行う際には、譲渡の相手方、譲渡する株式数、譲渡価格などを記載した譲渡承認請求書を、会社に提出します。

定款の定めによっては、譲渡承認請求の手続きを省略できる場合もありますので、併せて確認しておきます。

譲渡承認の場合には、会社は速やかに買主と売主の双方に対して、その旨を通知します。

株式譲渡承認請求の手続きは、会社法や定款に基づき、適切に行わなければ後から譲渡が無効となるおそれもありますので、慎重に行いましょう。

⑤株主名簿の変更請求

株式譲渡の手続きが完了したら、最後に、譲受人は会社に対して株主名簿の記載変更を請求します(会社自身が自社株式を取得する場合を除く)。

株主名簿とは、会社が株主の氏名や保有株式数、取得年月日などを記載したもので、会社法によって作成・備え付けが義務付けられています。

株主名簿に記載されることで、株主は会社に対する権利(配当請求権、議決権など)を正式に行使できるようになります。

株主名簿への記載は、第三者に対する対抗要件となります。

つまり、株主名簿に記載されていなければ、他の株主などに対して、自身が株主であることを主張することができません

そのため、株式譲渡が完了したら、速やかに株主名簿の変更請求を行い、自身の権利を明確にしておくことが重要です。

株主名簿の記載事項に変更があった場合も、同様に、速やかに変更を請求する必要があります。

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株式買取交渉を行う際は株券の取り扱いに注意

株式買取交渉を進める際には、会社が株券を発行しているかどうかによって手続きが変わります。

株券発行会社の場合、株式を譲渡するには、売主から買主へ実際に株券を渡す必要があります。これが行われないと、譲渡が無効になる可能性があります。

一方、株券を発行していない会社(株券不発行会社)であれば、株券の交付は不要です。

もし会社が株券発行会社なのに株券を発行していない、または紛失している場合は、まず株券不発行会社へ変更する手続きが必要です。

株券の扱いを誤ると、譲渡が無効になるだけでなく、株主の権利にも影響するため、事前に会社の定款や株券の有無をしっかり確認しておくことが大切です。

株式買取交渉に応じてもらえない場合の対応

株式買取の交渉をしても、株主がどうしても応じてくれない場合には、スクイーズアウトという手続きを検討することがあります。

これは、少数株主の株式を会社が強制的に買い取る方法で、経営の安定化や効率化を目的としています。代表的な手続きには、特別支配株主による売渡請求があります。

ただし、少数株主の権利を制限する可能性があるため、公正な価格での買取や十分な説明が必要です。手続きに不備があると、訴訟に発展するリスクもあるため、慎重な対応が求められます。

90%以上の議決権を持っている場合

会社の経営者が総議決権の90%以上を保有する特別支配株主となった場合、株式買取交渉を有利に進める手段として特別支配株主の株式等売渡請求を行うことが可能です。

特別支配株主の株式等売渡請求とは、議決権の90%以上を保有する特別支配株主が、残りの少数株主に対して自社株の売渡しを請求する法的手続きです。

この制度により、会社経営者は少数株主から強制的に株式を買い取ることができ、経営の安定化を図ることが可能となります。

特別支配株主が売渡請求を行うには、会社法に基づく要件を満たす必要がありますので、売渡請求の理由や条件を明確にし、公正な価格を算定しましょう。

価格は専門家による評価額など、少数株主にとっても納得のいくものとする必要があります。この手続きを通じて、会社は経営権を掌握することができるでしょう。

3分の2以上の議決権を持っている場合

議決権の3分の2以上を保有している場合、特別支配株主の株式等売渡請求は利用できませんが、株式併合という手法を用いて、少数株主の株式を事実上、強制的に買い取ることができます。

株式併合とは、複数の株式をまとめて、より少ない数の株式にすることをいいます。

例えば、10株を1株に併合する場合、10株未満の株式は1株に満たない端数となり、会社は端数となった株式を買い取ることができます。

この仕組みを利用することで、少数株主を排除することが可能になりますが、株式併合を行うには株主総会の特別決議が必要です。

また、裁判所に売却許可の申立てを行い、許可の決定を得るなどのプロセスも生じます。

株式併合は、少数株主の権利を侵害する可能性のある手続きであるため、裁判所の審理が必要となることも考慮し、慎重に検討しましょう。

3分の2未満の議決権しか持っていない場合

議決権の3分の2未満しか保有していない場合は、少数株主から強制的に株式を買い取ることができません。

この状況では、他の株主との協力を通じて株式併合を目指すか、追加の議決権を取得するプロセスが必要となります。

他の主要株主と協力して議決権の合計を3分の2以上に引き上げることができれば、強制的な買取が可能となります。

しかし他の株主が簡単に協力してくれるとは限りませんので、十分な協議を行い、双方にとって有益な条件を提示することが必要となるでしょう。

また、株式公開買付などによって、追加の議決権を取得する方法も考えられます。

総じて3分の2未満の議決権しか持っていない場合でも、他の株主との協力や交渉を通じて、株式併合の手続きを利用したスクイーズアウトを行える可能性はありますが、判断が難しいケースですので、事前に専門家のアドバイスを受けた方がよいでしょう。

株式買取交渉に関しては弁護士法人ALGにご相談ください

自社株式買取交渉は、法的な専門知識が必要となる複雑な手続きです。

自社株式を買い取ることによって、会社経営を安定化させ、成長戦略をスムーズに行えるなどのメリットがある一方、その手続きは複雑で、トラブルが生じやすいともいえます。

株式買取交渉においては、株式の価格鑑定やその交渉、スクイーズアウトの適切性、株式買取価格決定申立など様々な課題があります。

弁護士法人ALGは、多数の中小企業の経営をサポートする豊富な経験と実績を有しています。

株式買取交渉に関しても積極的に取り組んでおり、様々なご相談に対応しています。株式買取交渉に関する事前相談やトラブル時の対応など、専門的なアドバイスを行っておりますので、まずはお気軽にお問い合わせください。

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