卵巣癌の患者が死亡したことについて、医師が承認前の治験薬を投与するに当たり十分な説明を行わなかった過失と、誤った投与方法を行った過失が認められた事件

判決名古屋地方裁判所 平成12年3月24日判決

卵黄嚢腫瘍とは、女性においては一般的に卵巣から発生する癌です。比較的稀で、新生児期から成人に至るまで幅広く発生する腫瘍であるといわれています。

卵黄嚢腫瘍は、抗癌剤が良く効く特徴があるため一般の卵巣癌とは違い、子宮や両側の卵巣まで摘出する必要はなく、手術後に3つの抗癌剤薬を併用する療法が行われます。決められた期間と投与量を守って抗癌薬治療を行えば、予後は比較的良好です。

以下では、卵黄嚢腫瘍の患者が死亡したことについて、承認前の治験薬を使用する際に十分な説明を行わず投与した過失などが認められて約3400万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

女性Aは、B病院において子宮筋腫と診断されたため子宮筋腫の切除術が行われましたが、開腹の結果右卵巣に悪性腫瘍が認められたため、右卵巣腫瘍摘出のほか、左卵巣および子宮の全摘手術が施されました。病理検査の結果、卵黄嚢腫瘍であると診断されたため被告C病院を受診するよう紹介されました。

女性Aは被告C病院を受診し、担当医によって検査を受けた結果、手術による腫瘍の残存および、肝臓と横隔膜を越える部分への転移が認められ、病変の状態は進行期Ⅵであると診断されました。

担当医は、手術をしても残存腫瘍の完全摘出は不可能であると判断して抗癌剤の投与による化学療法を採ることとしました。

当時の卵黄嚢腫瘍に対する標準的な化学療法は3つの抗癌剤を併用するPVB療法でしたが、担当医はPVB療法を施行せず、承認前で有効性や安全性が十分確認されていない治験薬を使用することに決めました。

しかし、女性は本件治験薬の投与により、発熱、下痢、吐き気などの副作用のほかに、骨髄毒性により血小板が減少して全身の出血傾向が重篤化し、出血性ショックにより死亡しました。

原告らは、承認前の治験薬について、臨床試験を行う旨の説明を行わなかった過失があるなどとして被告C病院に対して損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、患者に対して承認前の治験薬を臨床試験として施行する際は、一般的な治療を行う際の説明事項に加えて、医療水準として定着していない治療法であること、他に標準的な治療法があること、予期される効果および危険性などの説明を行い、患者本人やその家族らに十分に理解させ、自発的な同意を取得する義務(インフォームド・コンセント)があることを指摘しました。

さらに、治験薬の投与量などの規定に反する危険な医療行為を実施しようとする場合は、その内容および必要性、危険性について具体的に説明を行い、患者がその危険性を承知のうえで施行するのでなければ、患者の自己決定権を尊重したことにならないことを指摘しました。

しかし、被告C病院の医師の行った説明はインフォームド・コンセントが十分であったとはいえないだけでなく、適用量よりも過大な量を女性Aに対して投与し、抗癌剤治療法とは併用してはならないにもかかわらず、それに違反して他の抗癌剤治療薬と併用していたことにより女性Aが死亡するに至ったことが認められるため、担当医には治験薬に関するインフォームド・コンセントに違反した過失と、医療行為を怠った過失があると判断しました。

結果裁判所は、被告C病院および医師に対して約3400万円の賠償を命じました。

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