判決横浜地方裁判所 平成24年1月19日判決
大動脈解離とは、高血圧などによって身体の中で一番太い大動脈が裂けてしまう病気です。男女ともに70歳以上の高齢者に発症することが多いといわれています。
大動脈解離の症状の一番の特徴は、突然胸や背中に引き裂かれるような激しい痛みが現れることです。解離は患部に広がっていくにつれて、痛みが胸から背中、肩、胸部へ移動することもあります。
大動脈解離が疑われるときには、胸部X線検査、超音波検査、MRI検査などを行い、詳細に血管状態が確認できる造影CT検査によって確定診断が行われます。
大動脈解離が放置されると心臓が全身に血液を送り出せなくなり、命に関わる事態に陥る可能性があるため、診断されれば専門医療機関での緊急手術が必要となります。治療しない場合、約75%が2週間以内に死亡し、治療した場合5年の生存率は60%、10年の生存率は少なくとも40%といわれています。
以下では、大動脈解離発症の有無の検査を怠った過失が認められて約7200万円の賠償を命じた事件を紹介します。
男性Aは、5、6分間続く胸痛発作を感じたため救急車を要請し、被告病院に搬送されました。問診の際に男性Aは、胸から喉にかけて締め付けるような胸痛を感じたこと、高血圧の既往があり現在も降圧剤を服用している旨伝えました。
医師が心電図検査、血液検査、胸部レントゲン検査、経胸壁心エコー検査を行ったところ、血液検査の結果、Dダイマーが高値を示していましたが、その他の検査では異常を示す所見はみられなかったため、狭心症の疑いと診断して、精査目的で即日入院させることにしました。
なお、同日、被告病院のCT検査機器はメンテナンス中で使用できない状態でした。
入院後、血圧測定を行ったところ左右差が認められました。また、同日の午後0時20分に男性Aは背部痛を感じたためナースコールをし、狭心症などの治療薬の投与を受けましたが30分経過するまで痛みは消失しませんでした。
午後3時10分ころは、背中から腰にかけて痛みがあり、起きたり寝返りをうつことができず、動くと動悸がする状態であったため鎮静剤の投与を受けました。
翌日、看護師が訪室したところ男性Aは呼吸が停止しており、脈拍が触れない状態でした。心肺蘇生などが行われたものの、男性Aの死亡が確認されました。病理解剖の結果、死因は急性大動脈解離に起因する心原性ショックであると診断されました。
原告らは、大動脈解離発症の有無を確認するため、CT検査などを行う義務を怠ったなどとして被告病院に対して損害賠償を請求しました。
裁判所は、①入院時に、大動脈解離を疑わせる所見の一つでもある、血圧に左右差が認められていたこと。②午後0時20分ころに背部痛という新たな痛みが生じ、また狭心症の治療薬を服用しても通常であれば効果が現れるはずの5分以内に痛みが消失しなかったこと。
③午後3時10分ころに、再び背中から腰にかけて相当強い痛みが生じたこと。を総合考慮すると、狭心症の疑いという当初の診断を疑うべきであったことを指摘しました。
その上で、入院時、男性Aに対してCT検査が行われておらず、大動脈解離の除外診断ができていないという状況を考慮すれば、遅くとも③の時点で改めて大動脈解離の可能性も含めて鑑別診断を行う必要があり、CT検査を受けさせるために転医させるか、最低限、被告病院にて経胸壁心エコー検査を行う義務があったと判断しました。
また、被告病院が上記義務を怠っていなければ、男性Aの救命は十分可能であったものであり、被告病院の過失と男性Aの死亡との間に相当程度の因果関係があったことを認めました。
結果裁判所は、大動脈解離の発症の有無を鑑別する検査を怠ったとして被告病院に対して約7200万円の賠償を命じました。
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