判決東京地方裁判所 平成24年1月26日判決
急性喉頭蓋炎とは、細菌感染によって喉の奥が腫れる病気です。
主な症状は、喉の激しい痛み、嚥下痛、発熱、呼吸困難などです。急性喉頭蓋炎は進行するスピードが速く、治療が遅れると喉が腫れて気管が閉塞してしまい数時間で死に至ることがあります。
急性喉頭蓋炎の治療法は、軽症以外は基本的に入院し、細菌に対する抗生剤の点滴と喉の腫れをひかせるためのステロイド剤の点滴を行います。喉の腫れがひどく、気道が狭くなって窒息の危険がある場合は、気管切開術を行い呼吸の道を確保する必要があります。
以下では、急性喉頭蓋炎の患者に対して、外科的気道確保を行う義務を怠った過失が認められて約4700万円の賠償を命じた事件を紹介します。
男性Aは、喉の痛み、頭痛、高熱などの症状があったため、被告B病院を受診したところ、急性扁桃腺炎や急性喉頭膿瘍が疑われ、急変の可能性を考えて念のために即日入院することとなりました。
入院後、被告C医師が男性Aを診察した結果、急性喉頭蓋炎の疑いと診断して看護師に対して経過をよく見るように指示を行いました。
午後6時15分ころ、男性Aはトイレで嘔吐し、廊下にて、呼吸苦およびチアノーゼが著明であったところを看護師に発見され、病室に運ばれて酸素マスクでの酸素投与が開始されました。
午後6時30分ころ、被告C医師およびD医師は男性Aの病室に訪れ、不規則な呼吸と喘鳴を確認したため、気道確保のためにアンビューバッグの施行などの措置を行いました。
午後7時ころ、男性Aの体動が強かったため、被告C医師は男性Aに対して内視鏡による挿管を試みましたが口腔内から咽頭まで浮腫があったため挿管できませんでした。
その後、午後7時22分ころと午後8時15分ころに再度挿管を試みましたが、やはり挿管できませんでした。
午後8時42分ころに救急車の要請がされ、午後9時3分ころに男性Aは転医先の病院に到着しましたが、既に男性Aは心肺停止状態であったため、即座に輪状甲状靭帯切開が行われ、気道が確保されました。しかし3日後、男性Aは低酸素脳症により死亡しました。
原告らは、速やかに外科的気道確保をすることや、それが可能な救急医療機関へ転送すべき義務を怠ったなどとして被告B病院および被告医師らに対して損害賠償を請求しました。
裁判所は、急性喉頭蓋炎により呼吸困難の症状が認められる患者について、気管挿管が困難であり、早急に気道確保しなければ患者の生命に影響がある場合は、気管切開などの外科的気道確保を行うか、それが可能な他の医療機関に転送すべき注意義務があることを認めました。
その上で、被告B病院の医師らは1回目の挿管に失敗した時点で、挿管が難しいことを認識していた事実が認められるため、2回目に挿管を行った午後7時22分の時点で、気管挿管は困難と判断して直ちに気管切開術などの外科的気道確保を行うか、他の医療機関へ転送すべき義務があったと判断しました。
しかし、午後7時22分の時点で外科的気道確保が行われていたとしても、男性Aには重篤な脳機能障害が残存した可能性が高いと判断しました。
結果裁判所は、外科的気道確保を怠った過失と、他院へ転送すべき注意義務を怠った過失を認めて被告B病院に対して約4700万円の賠償を命じました。
医療過誤のご相談受付
まずは専任の受付職員が丁寧にお話を伺います。
※精神科、歯科、美容外科のご相談は受け付けておりません。 ※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。