未破裂脳動脈瘤に対するクリッピング術を受けた患者が、術後に脳梗塞を発症し重度の後遺症が残存したことについて、医師が術中に血流の確認を怠った過失が認められた事件

判決名古屋地方裁判所 平成23年2月18日判決

未破裂脳動脈瘤とは、脳の動脈にできるコブ(動脈瘤)です。ほとんどが無症状で脳ドッグや脳の検査を受けたりして偶然見つかる場合が多いとされていますが、中にはコブが大きくなって脳の神経を圧迫して激しい頭痛などが現れる場合もあります。

また、コブの中にできた血液のかたまりが脳の血管に詰まって脳梗塞を発症するおそれがあります。さらに破裂すれば、くも膜下出血をおこします。

治療は、動脈瘤の破裂率と患者さんの年齢、治療法リスクによって治療法が選択されます。治療法の一つでもある、クリッピング術は頭蓋骨を開頭し、コブの根元をクリップで挟むことにより、コブに血流が入らないようにして破裂を予防する手術です。

クリッピング術は、完全に血流を遮断することができるため、再発する可能性が低くなりますが、合併症として脳内出血や、血管の閉塞による脳梗塞、脳の損傷、神経後遺症を生じるリスクがあります。

以下では、クリッピング術の際に医師が血流の確認を怠ったことにより、患者に重度の後遺症が残存した過失が認められて約5300万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

女性Aは、頭痛を訴えて被告病院を受診し、頭部MRI検査、MRA検査、3D-CTA検査、脳血管造影検査を受けた結果、右内頚動脈の前壁に未破裂脳動脈瘤が認められたため、脳動脈瘤クリッピング術を受けるために被告病院に入院することとなりました。

手術当日、医師は頚部で内頚動脈を確保した後、開頭して血流を確保するために動脈などの機能を確認しました。その後、クモ膜を切開したところ、右内頚動脈に動脈瘤が認められました。

動脈瘤は視神経に癒着しており、壁が薄く血流が渦を巻いているのが見られたため、動脈瘤の両側を剥離してクリッピングしました。動脈瘤から透けて見えた血流は止まりましたが、動脈瘤から拍動が検出されたため、リムーバーを用いてクリップを進めました。

再度、血流計を用いて動脈瘤を確認したところ、流れの音は検出されなかったため、医師は血流計を内頚動脈に当てず手術を終了しました。

術後、女性Aは帰室しましたが麻酔から覚醒せず、その数時間後も麻酔からの覚醒が不良で痛み刺激にも開眼することはありませんでした。そこで医師が女性Aに対して、CT検査およびMRI検査などを実施したところ、脳梗塞を発症している事が判明しました。

医師は女性Aに対して脳梗塞の治療やリハビリテーションを開始しましたが、女性Aには左上下肢麻痺および高次脳機能障害が残存しました。

原告らは、内頚動脈の血流確認義務を怠ったなどとして被告病院に対して損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、クリップが右内頚動脈にかかったために、右内頚動脈が搾取または閉塞して、血流が足りずに血流が低下して、血流が足りずに脳梗塞を発症したことを認めました。

そして、脳動脈瘤クリッピング術は予防手術のため、術中破裂や血管損傷の合併症を起こさないことが重要とされており、正常血管を巻き込まないようにするために、クリッピングの前にブレード(クリップの挟む部分)が挿入できる部分を確保し、クリッピング後は必ず動脈瘤をクリッピングできているか、正常血管を挟んでいないかを確かめる必要があることと、親血管の搾取および閉塞を避けて、親血管の血流を確保すべき義務があることを指摘しました。

その上で、女性Aに動脈瘤が発症していた右内頚動脈の部位は、血管の可動性が少ないため、可動性を確保するために前床突起の切除を行うか、それが困難であればクリッピング後に動脈瘤を剥離してクリッピングの状態を確認すべきであり、また血管の血流の確認は外部からは困難であったため、血流計を用いて内部動脈の血流の状態を確認すべきであったと判断しました。

結果裁判所は、血流を確認すべき義務を怠ったとして被告病院に対して約5300万円の賠償を命じました。

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