判決大阪地方裁判所 平成19年7月30日判決
C型肝炎とは、肝臓がC型肝炎ウイルスに感染し、肝臓に炎症が起こる病気です。C型肝炎ウイルスは、主に血液や体液を介して感染するため、性的接触により感染する可能性もあります。
C型肝炎は感染しても、ほとんどの人が無症状です。自覚症状がある場合には、食欲不振、倦怠感、発熱、黄疸などがみられます。
C型肝炎はゆっくりと進行しますが、治療をせずにそのまま放置すると肝硬変に移行して、肝硬変になると1年間に5~8%の人が肝臓癌を発症して命を落とすおそれがあります。
また、C型肝炎は早期に適切な治療を行えば、約90%の人が完治できるといわれているため、少しでもC型肝炎の可能性が疑われる場合は、ウイルス検査を受けて、感染が認められた際にはウイルスを体内から排除する治療を受ける必要があります。
以下では、C型肝炎ウイルス検査に応じない患者について、医師が説明および説得義務を怠った過失が認められて約270万円の賠償を命じた事件を紹介します。
男性Aは、平成8年10月から被告B病院において高血圧症の治療を開始しました。
同年11月に被告B病院を受診して血液検査を受けたところ、異常値を示すものであったため、担当医であるC医師は男性Aに対して肝炎ウイルスに感染している可能性を説明して、肝炎ウイルス検査の受検を勧めましたが、男性Aはそれに従わず受検しませんでした。
その後も男性Aは1ヶ月に1、2回、被告B病院に通院し高血圧治療薬の投薬を受けていました。
平成12年12月、男性Aは再び被告B病院にて血液検査を受けました。検査の結果、肝機能の数値が非常に高かったことに加え、男性Aは常日頃からアルコールを摂取していたことから、アルコールによる慢性肝炎と診断して、男性Aに対して禁酒を指示し肝機能改善薬を処方しました。
またC医師は、再度、男性Aに肝炎ウイルス検査の受検を勧めましたが、男性Aは受検しませんでした。
その後も男性Aは定期的に被告B病院に通院し、高血圧治療薬および肝機能改善薬の投薬を受け、また診察の際にC医師が禁酒および肝炎ウイルス検査の受検を勧めましたが、男性Aは応じませんでした。
そして平成17年6月、男性Aに黄疸が認められたためC医師が腹部エコーを実施したところ、腫瘤の陰影を多数認め、C型肝炎の感染が高いと判断してD病院を紹介しました。
男性AはD病院を受診して検査を受けた結果、C型肝炎ウイルスの感染および肝臓癌がステージⅣへ進行していることが判明しました。その後、抗癌剤治療が行われましたが、男性Aは同年8月に死亡しました。
原告らは、C型肝炎を疑わせる検査結果などから、男性Aに対する鑑別検査および治療を行うべき注意義務を怠ったとして、被告B病院に対して損害賠償を請求しました。
裁判所は、検査を拒否するような患者に対して、改めてC型肝炎を発症しているとすれば、予後がどのようなものになるのか、またそれを回避するためにどのような治療が必要であるかを説明し、C型肝炎ウイルス検査を受検するよう説得を試みる義務があることを認めました。
その上で、被告B病院のC医師は男性Aに対して、C型肝炎ウイルスに感染している可能性を説明していたものの、感染していた場合に予後が重大なものであるため、その治療が必要であると説明することや、改めて検査を受検するよう説得を試みることはなかったため、説明義務を尽くさなかったと判断しました。
しかし、男性Aは禁酒の指示を受けながらも、自制できずに多飲を継続して、C医師の検査指示にも一切応じなかったことが認められるため、C医師が説明義務を尽くしていたとしても、男性Aが検査に応じた可能性は低く、「本件と同じ経過をたどって死亡していた可能性が高く、亡Aが、その死亡の時点において、なお生存していた高度の蓋然性を認めることはできない」として、死亡との間の因果関係を否定しました。
しかし、死亡の時点で男性Aが生存していた可能性が相当程度にはあるとし、結果裁判所は、C医師の説明義務違反および説得義務違違反を認めて被告B病院に対して約270万円の賠償を命じました。
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