判決大阪地方裁判所 平成25年2月27日判決
TC療法とは、卵巣がん、子宮体がんの代表的な抗がん剤治療です。パクリタキセルとカルボプラチンという2種類の異なる作用の抗がん剤を組み合わせて治療が行われます。
TC療法によって起こり得る主な副作用は、脱毛、しびれ、関節痛、白血球減少、吐き気、アレルギー反応などです。その中でもアレルギー反応は、抗がん剤の点滴時やその直後に起こることが多く、息苦しさ、皮疹、冷汗などが現れます。
ほとんどが一時的なもので治まりますが、アレルギー反応が強く出ると生命に関わる可能性もあるため十分な観察と対応が必要です。
以下では、TC療法を受けた患者がアナフィラキシーショックを発症して死亡したことについて、医師の過失が認められなかった事件を紹介します。
女性Aは、子宮体がんの手術目的で被告病院に入院し、子宮全摘手術を受けました。
術後に子宮体がんの病理組織検査が行われた結果、リンパ管侵襲および血管内侵襲が認められたため、抗がん剤治療であるTC療法を受けることとなりました。
女性AはTC療法の第1クール目後に、前胸部、両腕、四肢に発疹が生じたため、皮膚科の診察を受けましたが、医師は、抗がん剤投与後8日ほど経過していることや女性Aの発疹などから急性のアレルギー反応ではなく湿疹であると診断して、抗アレルギー剤とステロイド外用剤を処方しました。
そして皮膚科の医師は女性Aの主治医に対して「湿疹がパクリタキセルの影響かどうかはっきりしないが、発疹の再燃があるようであれば、抗アレルギー剤併用のうえ治療を続けていただければ良い」と連絡をしました。
そして第2クール目が開始されたところ、女性Aはパクリタキセルの投与を受けた直後にショック症状を起こして死亡しました。
なお、パクリタキセルの添付文書に「過去にパクリタキセルで過敏症状があった場合には、原則投与禁忌になる」「重篤な過敏症状が発現した場合には、本剤の投与を直ちに中止し、適切な処置を行うこと」などと記載されていました。
原告らは、2クール目の抗がん剤投与について過失があるなどと主張して、被告病院に対して損害賠償を請求しました。
裁判所は、第1クール目後に発症した皮疹は、パクリタキセルを投与してから8日ほど経過して生じたものであり、皮膚科の医師も引き続き投与が可能と診断したことや、軽度の湿疹に対して処方する薬剤を女性Aに対して内服したところ短期間で皮疹が治まり、重篤な過敏症状といえるようなものではなかったこと、また文献上にパクリタキセルによる薬疹が投与後から遅れて生じた場合の回避について記載されていなかったことなどの事情に照らせば、第2クール目の抗がん剤としてパクリタキセルを使用したことについては、当時の医療水準に沿った合理的な理由に基づくものであったため、パクリタキセルの再投与を回避すべき義務があったと認めることが出来ないと判断しました。
結果裁判所は、原告らの請求を全て棄却し被告病院の過失はないと判示しました。
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