妊娠高血圧症候群の患者が死亡したことについて、帝王切開後の管理に過失があると認められた事件

判決名古屋地方裁判所 平成21年12月16日判決

妊娠高血圧症候群とは、妊娠20週以降から産後12週までの間に高血圧を発症することです。妊婦の20人に1人が発症するといわれており、誰にでも発症するリスクがあります。

早発型と呼ばれる、妊娠34週未満で発症すると重症化しやすく注意が必要です。

重症化すると、脳出血や肝臓および腎臓の機能障害、痙攣発作、HELLP症候群(血液中の血小板が減少し、肝機能の低下によって引き起こされる疾患)、常位胎盤早期剥離、胎児発育不全、胎児機能不全など多岐にわたり、母子ともに危険な状態に陥ります。

妊娠高血圧症候群は根本的な治療がなく、分娩が一番の治療となります。安静のため入院することも多く、また重症の高血圧が認められる場合は降圧薬を使用したり、痙攣発作の予防の投薬が行われることもあります。

以下では、妊娠高血圧症候群の管理目的で入院した患者がHELLP症候群を発症し死亡したことについて、患者の管理に過失があると認められて約8400万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

女性Aは、妊婦健診において早発型の妊娠高血圧症候群と診断され、1月5日に被告病院に紹介入院しました。

同月9日、女性Aの血圧が高かったため降圧剤の投与が開始されましたが、その後も高血圧状態が持続し、女性Aは全身の激しい倦怠感、嘔吐、強い胃痛などの症状を訴えていました。

血液検査が行われた結果、肝酸素の上昇がみられたため帝王切開術を実施することとなり同月16日午前0時10分に帝王切開術が終了しました。

術後、女性Aは体の痛みを強く訴えたため、鎮痛剤が投与され、全身の強い倦怠感、悪心、胃のむかつきの症状も訴えました。また、午後2時以降に女性Aの血圧が再び上昇し始め、午後3時30分および午後7時30分に行われた血圧測定では、重症基準を満たす高血圧が認められました。

同月17日午前0時55分に医師は再び鎮痛剤を投与しましたが、午前6時20分に痙攣発作が生じたため血液検査を行ったところ、重症のHELLP症候群および血管内で血栓が生じていることが確認されました。

また、頭部CT検査によって脳内出血とびまん性の脳浮腫の進行が確認された後に、女性Aの自発呼吸が停止し2月13日に死亡が確認されました。

原告らは、帝王切開後の管理に過失があるなどとして被告病院に対して損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、重症の早期型妊娠高血圧症候群について、分娩後24時間以内に重篤な合併症が起きることが度々あると報告されていることを指摘しました。

そして、女性Aは重症の早期型妊娠高血圧症候群が10日程度続いた後に帝王切開術を実施したことからすると、帝王切開後2日程度は血圧、脈拍、尿蛋白、血液検査などを経時的に測定を行い、必要に応じて降圧剤を投与するといった管理を継続すべきだったと認めました。

その上で、術後の16日に行われた血圧測定で、重症基準を満たす高血圧が続いていたのにも関わらず、被告病院の医師は帝王切開から24時間以上経過した後、女性Aに痙攣発作が生じるまで血液検査が実施することがなかったことについて、HELLP症候群の発症の有無を確認するための血液検査を16日中に実施すべきであり、女性Aの主訴や血圧値を考慮して、16日の午後7時30分ころまでには降圧剤を投与していればHELLP症候群の発症を防止できた可能性が高いと判示しました。

結果裁判所は、帝王切開後の管理の過失を認めて被告病院に対して約8400万円の賠償を命じました。

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