判決函館地方裁判所 平成26年6月5日判決
羊水検査とは、羊水を採取して、羊水中に含まれる赤ちゃんの細胞を調べ、染色体に異常がないか調べる検査です。検査により、ダウン症候群や胎児の傷害リスクが判明します。
診断の精度が高く、確定的検査として用いられていますが、母体に針を入れて検査を行うので胎児に傷がつくおそれや、早産や流産のリスクが伴います。流産のリスクは約0.1%~0.3%といわれています。
羊水検査のメリットは、出産や今後の育児に向けて情報収集を行うなど、赤ちゃんの出産に備えて妊娠中から準備を行うことができます。
以下では、羊水検査の結果報告に誤りがあったためダウン症児を出産したことについて、出生に対する準備の期間が奪われたことなどに対する慰謝料が認められて、約1000万円の賠償を命じた事件を紹介します。
女性Aは、被告B病院において、妊婦健診のエコー検査を受けました。その結果、医師から胎児の首の後ろに膨らみがあることを指摘されたため、胎児の染色体異常などを検出する羊水検査を受けることとしました。
被告B病院において羊水検査を受けた結果、報告書には分析所見として染色体異常が認められると記載され、胎児がダウン症であることを示す分析図も添付されていました。しかし被告B病院の医師は報告書の内容を見誤って、女性Aに対して、ダウン症に関して陰性であるため何も心配はいらないと説明しました。
この時点で女性Aは妊娠20週目でした。
その後、女性Aは健診の際に羊水が枯渇し胎児が弱っていると指摘されたためC病院に救急搬送されて、緊急帝王切開術により児を出産しました。
児は出生時、呼吸機能が十分に働いておらず、自力で排便もできない状態であったため、医師が被告B病院のカルテ情報を取り寄せて確認したところ、児がダウン症児だということを示す羊水検査結果が見つかり、その後女性Aらに伝えられました。
そして児は、ダウン症の新生児期にみられる一過性骨髄異常増殖症の合併により死亡しました。
原告らは、医師が検査報告を誤ったために、中絶をするか否かを選択する機会を奪われたなどと主張して、被告病院に対して損害賠償を請求しました。
裁判所は、女性Aは生まれてくる児に先天性異常があるのかについて調べることを目的として羊水検査を受けたのであり、両親である女性Aらにとって生まれてくる児が健常児であるかどうかは、今後の家族設計をするうえで関心事であり、また被告B病院の医師が、羊水検査の報告を正確に行っていれば、女性Aらは中絶を選択するか、または中絶をしない場合は、先天性異常を有する児の出生に対する心の準備や養育環境の準備ができたはずであると認めました。
その上で、女性Aらは医師の報告により出生直後に初めて児がダウン症であることを知ったばかりか、重篤な症状に苦しみ生後間もなくして死亡する姿を目の当たりにしたのであるから、女性Aらが受けた精神的衝撃は非常に大きなものであったと判断しました。
結果裁判所は、羊水検査の誤報告により、中絶の選択や家族設計の機会が奪われたとして被告病院に対して1000万円の賠償を命じました。
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