髄膜腫摘出手術の際に医師が操作するべきでなかった部位に操作を加えたことにより、患者に重度の後遺症が残存した過失が認められた事件

判決神戸地方裁判所 平成19年8月31日判決

髄膜腫とは、脳腫瘍の中で最も頻度が高く、女性に多い腫瘍です。ほとんどが良性腫瘍で、癌ではないので直接命に関わることはなく、基本的に他の場所に転移することはありません。

腫瘍が小さく症状がない場合は経過観察が行われますが、腫瘍が大きくなると神経を圧迫して、頭痛、嘔吐、運動麻痺、痙攣などの症状がみられるようになります。その場合は、開頭手術による摘出手術が行われます。手術は、腫瘍の部位や大きさ、硬さなどによって容易さを左右します。

腫瘍が大きくて硬い場合は、周囲の神経や血管と癒着していることが多く、腫瘍を摘出する際に傷つく可能性が高いため十分な注意が必要です。

手術は基本的に腫瘍を全摘出することを目指しますが、腫瘍が神経や血管と癒着して全摘出ができなかった場合は、術後に放射線療法などの追加治療が必要になる場合があります。

以下では、髄膜腫摘出手術の際に、医師が操作するべきでなかった部位に操作を加えた過失が認められて約5200万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

女性Aは、4月ころから頭痛やめまいが生じ、5月ころより歩行障害が生じたため被告病院を受診したところ、CT検査などの結果から右前頭葉に腫瘍病変が認められたため、被告病院に入院することになりました。

入院後、精密検査が行われた結果を踏まえて、右前頭蓋底および蝶形骨縁の髄膜腫と診断され、開頭脳腫瘍切除手術を受けることとなりました。

手術当日、腫瘍を内頚動脈から剥離する作業を進めている最中に、内頚動脈の内側部から出血が生じたため、止血管クリップを用いて出血部の前後で血流を遮断して止血が行われました。

その後、腫瘍の摘出が進められましたが、末梢側の内頚動脈および前大脳動脈の周囲が強く癒着しており腫瘍の摘出が困難であったため、医師は摘出を断念して、止血確認後、手術を終了させました。女性Aの腫瘍は90%以上は除去されましたが、視神経および内頚動脈付近のものは残されました。

術後、女性Aの麻酔覚醒が不良であったためCT検査が行われたところ、脳梗塞と診断され、女性Aに左片麻痺と失語症の後遺症が残存しました。

原告らは、手術の際に内頚動脈付近まで手術を行った過失があるなどとして、被告病院に対して損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、腫瘍の摘出範囲について、術者が手術を進めていく過程において得た情報をもとに決定すべきであるが、術者の裁量の範囲については、その他の事情も総合考慮した上で合理的な範囲内に限られると認めました。

その上で、被告病院の医師は視神経周囲の腫瘍を残すという選択をしたことから、内頚動脈周囲の腫瘍まで除去する必要性があったとはいえず、また、内頚動脈周囲は腫瘍除去が難しい部位であり、くも膜に沿った形の除去が必要であり、その操作を誤った場合の危険度は高く、代替手段もあったにも関わらず、本件手術を行い、くも膜の確認を行わずに腫瘍に対して操作を加えたことを指摘しました。

以上のことを考慮すると、被告病院の医師は、操作するべきでなかった部位についても操作を加えた過失があると判断しました。

結果裁判所は、内頚動脈付近まで腫瘍を摘出しようとしたため、出血し、女性Aに重篤な後遺症が残存した過失があるとして、被告病院に対して約5200万円の賠償を命じました。

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