判決東京地方裁判所 平成19年1月25日判決
結核性髄膜炎とは、結核菌の感染によって、脳や脊髄の表面を覆う髄膜に炎症がおきる病気です。乳幼児に多くみられ、約2週間の経過で頭痛、発熱、痙攣、意識障害が進行し、失明、水頭症などの重度の後遺症が残存することが多いため、早期治療が必要となります。
また、結核菌が肺胞に入り増殖すると、炎症を起こし、咳や熱がでたりします。進行すると、肺に空洞を作り、それが大きくなって呼吸困難に陥るおそれがあります。
結核性髄膜炎の診断は、髄液検査が重要となります。その他に、髄液を用いて、結核菌の塗抹培養、PCR検査、画像検査などを行います。
結核性髄膜炎は治療が遅れることで、死亡率や後遺症を残すリスクが高まるため、発結核性髄膜炎が疑われるときは、できるだけ速やかに抗結核薬を使用することが重要となります。
以下では、医師が結核性髄膜炎との鑑別診断を行わなかったことにより、小児に重度の後遺症が残存した過失が認められて約220万円の賠償を命じた事件を紹介します。
小児Aは、5月6日から発熱が続き、ひきつけと全身の痙攣が出現するようになったため、被告B病院へ紹介受診して、同月19日に入院することとなりました。
入院後、小児Aの右腕に強い痙攣が認められたため検査を行った結果、医師は、全身症状、髄液所見、脳波に左右差のあることから細菌性あるいはウイルス性の髄膜炎および脳炎の可能性が高いと判断し、抗生物質と抗ウイルス薬の点滴を開始しました。
同月22日、胸部X線検査が実施されたところ、右上肺野に肺胞の充満が認められましたが、医師は肺炎とまでは判断せず、髄膜炎および脳炎以外に、先天性代謝異常症などの可能性も考え、尿のアミノ酸分析、血中ピルビン酸、乳酸の検査を依頼するなどとしました。
しかし、同月23日以降、小児Aは全身強直性痙攣、眼球上転、発熱などを繰り返しました。
6月7日、胸部CT検査を行った結果、肺野全体に散らばった陰影を認めたため、粟粒結核を疑いました。翌日に他病院の医師に相談したところ、小児Aが結核性髄膜炎と粟粒結核であることが判明し、小児AをC病院へ転院させました。
その後、小児Aは結核性髄膜炎後遺症、水頭症などと診断され、脳の疾患による四肢体幹機能障害が残存しました。
原告らは、適時に結核性髄膜炎との鑑別をせず、専門病院に転医させなかった過失があるなどとして被告B病院に対して損害賠償を請求しました。
裁判所は、結核性髄膜炎の鑑別診断について、髄液の結核菌培養、結核菌塗抹染色検査、PCR検査は標準的なものであるため、結核性髄膜炎が排除できない状況となった以上、被告B病院の医師には、これらの検査を行う義務があると認めました。
その上で、5月22日の時点で胸部X線検査により右上肺野に肺胞の充満が認められ、これが髄膜炎の原因となっている可能性も否定できないことから、小児Aの髄膜炎が結核性のものである疑いは以前より深まっていたのであるから、鑑別検査を行うか、専門医に意見を求め結核治療を適切に行うことのできる医療機関に転医させるべきであったと判断しました。
また、上記注意義務を尽くしていれば、小児Aに重篤な後遺症が残存しなかった相当程度の可能性があると認めました。
結果裁判所は、結核性髄膜炎の鑑別診断をせず、専門医に転医させなかった過失があるとして被告B病院に対して約220万円の賠償を命じました。
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