食道癌の患者に対して、標準的治療方法とは異なる新免疫療法での治療を行う際に説明義務を怠った過失が認められた事件

判決東京地方裁判所 平成24年7月26日判決

食道癌とは、食道の粘膜から発生する悪性腫瘍です。食道癌は、早期の段階では自覚症状がほとんどないため、早期発見が難しいとされています。癌が進行するにつれて、胸の違和感、咳、体重減少、声のかすれなどの症状が出ます。

食道癌が疑われた場合は、まず癌かどうか確定するための検査を受け、癌であることが確定すれば癌の進行度を診断する検査が行われて、治療方法を選択します。

食道癌の治療には、大きく分けて内視鏡治療、手術治療、薬物療法、放射線療法の4つがあり、それぞれの治療法の特徴を生かしながら、単独または組み合わせた治療を行います。

以下では、食道癌の患者に対して標準的治療方法とは異なる新免疫療法を行う際に説明義務を怠ったと認められて、約100万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

男性Aは、B病院で初期の食道癌だと告げられ、C病院とD病院を受診しました。D病院で検査を受けた結果、癌の範囲が広く筋板に達しているため、内視鏡による切除術の適応はなく、手術または根治的放射線化学療法が勧められました。

しかし、男性Aは、新免疫療法による治療を希望し、D病院から診療情報提供書の交付を受けて翌月に被告E病院を受診しました。

被告E病院の医師は、男性Aに対して、標準的治療法と新免疫療法との併用を勧めましたが、男性Aは、新免疫療法単独での治療を希望しました。

そこで医師は、しばらく新免疫療法単独で治療をおこない経過を観察し、癌の進行が認められれば標準的治療法との併用に切り替え、経過が良好なのであれば内視鏡手術の適応などを判断することにし、その旨を男性Aに説明しました。

男性Aは新免疫療法による治療を継続していましたが、翌年B病院での検査で、ボールマンI型病変に変化した腫瘍が認められ、同病院の医師から標準的治療を提案されました。しかし男性Aはそれを拒否しました。

また、他病院の教授からも外科的手術が必要であり、手術を受けるなら最後のチャンスであるとの説明を受けましたが、それでも男性Aは手術を受ける意思はないと話しました。

その後、男性AはB病院で放射線治療と抗癌剤治療を併用して行う治療を受けることにしましたが、癌が進行し死亡しました。

原告らは、新免疫療法に関して説明義務違反があったとして被告E病院に対して損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、被告E病院が行っている新免疫療法が、癌の治療法としては医学的に確立された方法ではなかったため、当該治療を行おうとする医師は患者に対して、①患者の現在の状態②当該治療法の具体的な内容、長所、短所③過去の治療実績④予測される予後の見通しについて可能な範囲で具体的に事前説明を行うべきであると指摘しました。

その上で、被告E病院の医師は、標準的治療法が可能な患者に対する新免疫療法単独の治療実績はなく、その効果について十分なデータは有しておらず、また食道癌に関しては新免疫療法単独での根治は考えていなかったことが認められるため、それらについて男性Aに対して事前に説明すべきであったと判断しました。

しかし、男性Aは外科的手術に対して強く拒絶し、放射線治療と抗癌剤治療を併用して行う治療についても消極的であり、新免疫療法によって癌の縮小が見られた段階で内視鏡下での手術を行うことを期待しており、新免疫療法単独での癌の根治を目指していたものではないことなどを踏まえて、医師が事前に十分な説明を行っていたとしても、男性Aが標準的治療法を受けたと認めることはできないとし、死亡との因果関係を認めませんでした。

判決では、説明義務違反によって男性Aが侵害された利益は、治療方法選択にあたって新免疫療法を単独で行う場合の癌進行の可能性について十分な説明がなかったことによる治療選択における自己決定権にとどまり、慰謝料支払義務は100万円を相当としました。

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