判決東京地方裁判所 平成22年3月4日判決
結節性硬化症とは、全身の様々な場所に良性腫瘍や機能障害が生じて、てんかんや発達の遅れを伴うことがある全身性の疾患です。
多くの方は、小児期に皮膚症状、けいれん、行動異常、発達の遅れをきっかけに診断されます。完全に治すことが難しい病気で、症状をおさえる治療を行いながら、病気と一生付き合っていくことが必要になります。
結節性硬化症は、幼児期から10歳前後に、脳に良性の腫瘍ができることがあります。
腫瘍が急速に大きくなったりすると脳を圧迫して水頭症を発症するおそれがあるため手術が必要となります。
以下では、結節性硬化症の患者が、継続的に脳腫瘍を疑わせる症状を訴えていたにもかかわらず、医師が検査を怠った過失が認められて約5200万円の賠償を命じた事件を紹介します。
生後3ヶ月の小児Aは、平成9年6月に、げっぷをする時に眼球上転しながら痙攣するなどと訴えて母親と一緒に被告病院を受診しました。被告病院において、頭部MRI検査、脳波検査などを受けた結果から、小児Aは結節性硬化症、ウエスト症候群であると診断されました。
その後も小児Aは定期的に被告病院で診察を受けていました。
そして平成17年1月8日、小児Aの左足が震えており、最近あまり歩かないと母親が訴えて被告病院を受診しました。同月15日にも、歩いていると左足に傾く傾向がある、左足をかばうような感じがすると訴えて再び被告病院を受診しました。
同月27日および29日には、小児Aに嘔吐があったなどと訴えて被告病院を受診しました。
同月30日、小児Aは自宅において、だらんとして、四肢に力が入らない状態であったため両親は小児Aを被告病院に連れていき、医師が頭部CT検査を実施したところ、小児Aは水頭症になっている状態と認められ、対光反射がみられず、痛みの刺激にも反応しませんでした。
2月2日に行われた頭部MRI検査では右側脳室内に腫瘍が発見され、その後の手術で腫瘍は摘出されましたが、小児Aに高次機能障害が残り、身体障害程度等級1級の認定を受けました。
原告らは、脳腫瘍の存在を疑い適切な検査および治療を怠った過失があるなどとして、被告病院に対して損害賠償を請求しました。
裁判所は、結節性硬化症の患者には、一定の割合で10歳前後に脳腫瘍が見つかることが多いことから、結節性硬化症の患者を診察するに当たっては、脳腫瘍の存在の可能性も念頭に置いた上で診察すべきであり、特に脳腫瘍の存在を疑うべき訴えや症状が見られた場合は、より慎重に診察をするべきであると指摘しました。
その上で小児Aの母親は、平成17年に入ってからの診察の度に、水頭症および脳腫瘍の症状の一つである歩行障害や嘔吐などを訴えていることから、被告病院の医師は遅くとも平成17年1月29日には頭部CT検査やMRI検査を行うべきであったと判断しました。
また因果関係についても、1月29日までに頭部CT検査・MRI検査をして、手術を行っていれば、小児Aに生じている意識障害については避けられたと認めました。
結果裁判所は、適切な検査を行わなかった過失を認めて被告病院に対して約5200万円の賠償を命じました。
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