大動脈弁置換術後の空気抜き操作について、空気を抜く時間を十分に確保するべき義務を怠ったことにより患者を死亡させたことについて賠償を認めた事件

判決広島地方裁判所 平成7年8月30日判決

大動脈弁置換術とは、傷んだ大動脈弁を人工の弁に取り替える手術です。大動脈弁は血液が心臓に逆流をしないようにする重要な役割をしています。弁を取り替えることで、血液の逆流をなくすことが出来ます。ただし、大動脈弁置換術を行う際は、術中に心臓内に空気が入り、その空気が血液に入り込むと脳血管を詰まらせて意識障害を来す恐れがあるため、必ず空気抜きを行う必要があります。

以下では、大動脈弁置換術の終了時に空気抜き操作を十分に行わず患者を死亡させたことについて、病院に過失があると認められて約1790万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

女性Aは、昭和37年頃から心臓に異常があり昭和58~59年頃に心臓弁膜症と診断され内服治療を続けていましたが、昭和61年1月に心不全症状が出現して、その後さらに状態が悪化してB病院に搬送され入院しました。検査の結果、心臓の弁の一つが正常に動かなくなり大動脈から心臓に血液が逆流する、大動脈弁狭搾症兼閉鎖不全症及び僧帽弁不全症であり、弁置換術を受ける必要があると診断されました。女性Aは同年5月28日に、大動脈弁置換術を受けるため被告C病院へ入院しました。医師は女性Aの家族らに手術について具体的に説明をして、手術の了承を得ました。

そして6月5日9時46分頃、手術が開始されました。手術は順調に行われ、人工弁の縫着も終了し12時35分頃大動脈の切開口が縫合閉鎖されました。そして13時10分頃、心臓にカウンターショックを加えて拍動を開始させ、また空気が抜けやすいように大動脈を部分遮断しました。左室および左房に血液を充満させて左房切開口を閉鎖して、13時35分頃、血圧が80/50の数値を示し十分に脈圧が出たので、左房心尖部に残っている可能性のある空気は大動脈基部の空気抜け口から圧出されたものと判断されましたが、心臓をゆすったり体位を変えたりして残っている空気が出やすいようにしたうえ、13時40分頃までに空気抜き口を縫合しました。その後、医師が冠動脈に空気が走ったことを確認し、まだどこかに空気が残っていて、それが脳に行く危険性があると考え麻酔科に注意を促しました。しばらくして、麻酔科から瞳孔に異常が認められた旨の報告を受けて、脳に空気が入ったと考え脳循環を良好に保つために十分な流量と血圧を出して補助循環を行い対処しました。結果14時30分頃には瞳孔がほぼ正常に戻ったので補助循環を終了し、17時30分頃集中治療室に搬入されました。

女性Aは麻酔による鎮静状態を続けていましたが、翌日午前7時45分頃、全身に痙攣が出るようになり一度も意識を回復することなく6月27日に脳機能障害により死亡しました。

原告は、女性Aが死亡したことについて、手術中に十分に空気抜きを行わなかった過失などがあるとして被告C病院に対して損害賠償の請求を求めました。

裁判所の判断

裁判所は、空気抜き操作については、心臓が停止している状態で行う第1段階と、脈圧が出た状態で行う第2段階の操作があり、今回の手術のように左心系に切開口を有する心臓手術の場合は、ほかの心臓手術と比べて空気栓塞が発生しやすいという事情から、空気抜き操作に関しては、より慎重に、また十分に行う必要があると認めました。しかし、医師が行った空気抜き操作について第1段階は適切であったが、第2段階に関しては、麻酔記録に基づくと、瞳孔の異常が認められたのは13時35分~40分の間であり、13時40分には空気抜き口を縫合していたことから、長くても5分程度しか行っておらず、十分に行われていなかったと判断しました。医師は脈圧が出てから30分間行ったと主張されていましたが、手術記録に何ら記載されていなかったこともあり、医師には空気抜き口の閉鎖が早すぎた過失があったと認められました。

結果、裁判所は被告C病院(医師)に対して約1790万円の賠償を命じました。

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