肺塞栓症の症状が現れていたのにもかかわらず、別の病気を疑い肺塞栓症に対する処置や検査を放置して適切な治療行為を行わなかったことにより、患者が死亡した過失が認められた事件

判決浦和地方裁判所 平成12年2月21日判決

肺塞栓症とは肺の血管に血の塊が詰まって、突然の胸痛、呼吸困難、動悸といった症状がみられて最悪の場合死に至ることもある危険な病気です。危険因子として、手術中あるいは手術後、肥満、妊婦、ギプスの固定など様々存在します。肺塞栓症は短時間で死に至ることもあり、迅速な診断と治療が最も重要となります。

以下では、患者に肺塞栓症を示す症状が現れていたのにもかかわらず、適切な治療を行わなかったことにより患者が死亡したことについて、病院に過失があると認められて約3300万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

男性Aは飲酒をしていた友人Bの運転する原付の後部荷台に同乗していたところ、友人Bが運転を誤り、原付を転倒させたため、男性Aは原付の下敷きになりました。男性Aは右足首を負傷して立ち上がることが出来なかったため救急車で被告病院へ搬送されました。搬送後、意識は明瞭でしたが、右下肢から右のかかとまでの痛みを訴え、右足首に腫脹が見られたため、本件が原付の転倒事故であったことを考慮して、CT検査が実施されました。検査の結果、「右腓骨骨折、右足関節脱臼骨折」と診断されました。医師は、ギプス固定の処置をして3月22日から男性Aを入院させました。なお、男性Aは身長170cmで体重が82㎏の肥満体でした。

その後、男性Aは時たま発熱や足に腫脹などの症状がありましたが、装具を付けて歩ける程度まで回復していました。しかし、歩行練習が開始された5日後の4月18日に、男性Aより呼吸ができないくらい胸が苦しく心臓が痛いと訴えがあったため心電図をとりましたが特に異常はなく正常の範囲内でした。4月19日は不整脈が見られ、4月20日には再び胸の痛みを訴えたため心電図をとったところ、狭心症のような変化が認められたため、狭心症を防ぐ貼り薬を貼付して処置を行い、翌日も心電図をとることにしました。

4月21日、男性Aは動悸と腹部不快感を訴え、心電図は昨日の所見とほぼ同じでした。そして同日の午後5時50分に男性Aはトイレの中で座り込んでいる状態で発見されて、顔色は蒼白色でチアノーゼが見られ、呼吸苦を訴えていました。また、時々苦しいと大声を発していました。至急ストレッチャーで病室へ運ばれましたが、男性Aは痙攣を起こし、呼吸が停止したため心臓マッサージが行われましたが、意識が戻ることはなく死亡しました。そして、被告病院は男性Aの死亡は原因不詳による急性心不全であると診断しました。

原告らは、男性Aの死亡原因は肺塞栓症であり、その診断と処置を怠った過失があるとして、被告病院に対して損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、男性Aが死亡当日トイレの中で座り込んでいる状態で発見された際に呼吸苦を訴え、チアノーゼが見られ、冷汗があり、呼吸が速迫になり、その後も苦しいと訴えていたことから肺塞栓症に見られる症状と同様であると認めました。また、20日および21日に行われた心電図で肺塞栓症に見られる典型的な波形が現れており、負荷を掛けて歩行練習を開始した5日後に突然の胸の苦しみを訴え、その3日後に死亡していることから肺塞栓症を発症し死亡したことを認めました。また、男性Aは身長170cmで体重が82㎏の肥満体であり肺塞栓症を発症する要素があったこと、4月18日から肺塞栓症と同様の症状を訴え心電図でも肺塞栓症を示す波形が現れていたことから、被告病院は、肺塞栓症が発症していることを疑い、予防措置を採り、適切に治療を行う義務があったとして、被告病院の過失を認めました。

結果、裁判所は被告病院に対して約3300万円の賠償を命じました。

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