睡眠時無呼吸症候群の改善のために口蓋垂軟口蓋咽頭形成術を行った後、医師が術後管理を怠った過失と、蘇生術の失敗があったことにより患者が死亡した過失が認められた事件

判決福島地方裁判所いわき支部 平成9年3月12日判決仙台高等裁判所 平成14年4月11日判決

口蓋垂軟口蓋咽頭形成術とは、口蓋垂、口蓋扁桃、軟口蓋の一部を切除して気道を広げる手術です。気道が広くなることで、睡眠時無呼吸症候群の約50%の患者さんに効果があると報告されています。口蓋垂軟口蓋咽頭形成術は、全身麻酔下で手術を行うため1週間ほど入院が必要となります。また、リスクとして肥満の患者さんは手術そのものが危険を高めるため、術後に呼吸困難などの合併症を引き起こす恐れがあります。そのため、十分な術後管理が必要となります。

以下では、睡眠時無呼吸症候群の患者が口蓋垂軟口蓋咽頭形成術を受けた後に、医師が術後管理を怠ったこと、および蘇生術の失敗により患者が死亡したことについて、控訴審まで争われましたが病院側に過失があると認められて約9400万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

男性Aは、いびきが強くなり、日中の眠気が気になったため被告病院呼吸器内科のいびき外来を受診しました。そこで、睡眠時無呼吸症候群と診断されて、精密検査のために入院することになりました。なお、男性の所見は身長173cm、体重83㎏、扁桃や口蓋垂が肥大しており、舌が大きいと認められていました。治療として経鼻的持続陽圧呼吸法を行う呼吸器レムスターを装着しました。効果は直ちに現れて、最長無呼吸時間が119秒から16秒へと改善されました。一方で、男性Aは被告病院耳鼻咽喉科で診察を受けた際に、扁桃腺と口蓋垂を切除して空気の通りを良くする、口蓋垂軟口蓋咽頭形成術が適応すると診断されて手術を受けることを勧められていました。男性Aは睡眠時に常に装着しなければならない呼吸器レムスターから解放されるメリットがあるとして手術を受けることにしました。

手術は14時38分から17時15分までの間に行われ、その後回復室に移されましたが、血液の中に炭酸ガスが溜まり高炭酸ガス血症の所見が認められました。医師は看護師に、術後から翌朝まで4時間毎に血圧を確認するよう指示していました。しかし看護師が血圧を確認したのは、20時20分の1回のみでした。そして2時過ぎ頃、病室で付き添っていた男性Aの妻から男性Aの呼吸が止まっているとナースセンターに連絡がありました。駆け付けた医師により、心臓マッサージが行われましたが蘇生しなかったため、気管切開術を行って換気を試みました。その際に医師たちは、気管内チューブで男性Aの食道壁に穴をあけてしまい、それに気づかないまま空気を送り続けたため縦隔に大量の空気が入り込み、結果男性Aは無気肺となりました。その後、酸素吸入と心臓マッサージが続行されましたが、3時30分に男性Aは死亡しました。

病理解剖の結果、死因は突然死としか判明せず、解剖に立ち会った医師が急性呼吸不全を死因とする死亡診断書を作成しました。

原告らは、術後の管理不足および蘇生術の失敗による過失を理由に被告病院に対して損害賠償の請求を求めました。

裁判所の判断

【原審】

裁判所は、肥満の患者は、心肺機能が低下しているため手術後の合併症や突然死の発症が多いといわれていること、また睡眠時に呼吸停止をきたしやすく、麻酔回復期の呼吸観察を十分注意する必要があるとされていることから、肥満かつ睡眠時無呼吸症候群を合併している患者の場合は、たとえ呼吸状態がよくても可能ならICUに収容して呼吸管理を行うべきであったと指摘しました。また、被告病院は救急蘇生術の際に、気管内チューブで男性Aの食道壁に穴をあけ、横隔に大量の空気が入り込んだことにより無気肺が致命傷となり窒息死したと判断しました。したがって被告病院は、男性Aに対して麻酔覚醒後に呼吸不全に陥ることを防止すべき注意義務を負っていたのにもかかわらず、それを怠った過失と、蘇生術失敗により窒息死となり死亡した過失が認められました。

結果裁判所は、被告病院に対して約9400万円の賠償を命じました。

【控訴審】

裁判所は、一審判決では男性Aの死亡原因は窒息死と判断されたが、控訴審では致死性不整脈による心臓性突然死と認定するのが相当であると判断しました。しかし、致死性不整脈であったとしても術後に高炭酸ガス血症の状態にあった男性Aに対しては、十分な呼吸管理と注意が払われるべきであったと認めました。また、被告病院が適切な術後管理を行っていれば、死亡の結果を回避することが出来たとして、裁判所は被告病院が行った術後の呼吸管理は極めて不十分だと認定して、術後管理の過失が認められました。

結果裁判所は、原審の判断を維持し、控訴人に対して約9400万円の賠償を命じました。

医療過誤のご相談受付

まずは専任の受付職員が丁寧にお話を伺います。

0120-090-620
  • 24時間予約受付
  • 年中無休
  • 全国対応

※精神科、歯科、美容外科のご相談は受け付けておりません。 ※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。