末期の腎不全であり透析治療が必要であったにもかかわらず、患者が精神疾患の影響で透析の必要性を理解できないことを理由に、医師が透析治療を拒否したことについて、医師の過失を認めた事件

判決宮崎地方裁判所 平成8年3月18日判決福岡高等裁判所宮崎支部 平成9年9月19日判決

人工透析とは、腎臓の機能が低下した患者について、不要な老廃物や水分等を代わりに取り除くための治療です。一般的に知られている療法として「血液透析」があります。

血液透析とは、血液を体外で循環させて、透析膜によって不要な老廃物等を除去する療法です。週に3回程度の通院により、1回あたり4時間程度かけて行うケースが多く、心身への負担が重いことが知られています。

以下では、精神疾患のある患者の透析治療を医師が拒否したことについて過失が認められて、医師らに660万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

女性Aは精神疾患と糖尿病を患っており、双方への対処が可能なB病院で治療を受けていました。一時的に他院で治療を受けた女性Aは、7月11日にB病院で検査を受けて、腎臓の機能が著しく低下しており血液透析を視野に入れた治療を検討する必要があると判断されました。

7月12日、女性Aは家族に付き添われてC病院で検査を受けました。C病院の医師は、女性Aの医療に対する反応等から透析療法を受けるのは困難だと判断して、受け入れを拒否しました。

B病院は、女性Aに対して可能な範囲で治療を行うこととしました。しかし、7月16日には女性Aの検査結果が悪化して、尿毒症の症状が現れてもおかしくない状態になったため、女性Aの受け入れをC病院に再度依頼しました。

7月17日、女性AはC病院を再び訪れました。しかし、C病院の医師は、女性Aに透析についての理解力がないことを理由として、またしても血液透析を開始することを拒否しました。

7月19日、女性AはB病院に帰院しましたが、呼びかけに反応しない状態になっており、7月20日に死亡しました。

原告らは、7月12日および7月17日に透析療法を開始しなかった注意義務違反があるなどとして、被告らに損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

【原審】

裁判所は、C病院の医師が7月12日に女性Aへの透析治療を拒否したことについて、C病院には地域の中核病院としての社会的責任があったため認められないとしながらも、女性Aの家族がどうしても希望する場合には再検討する旨を伝えていたこと等を考慮して違法とまでは言えないとしました。

しかし、その後の検査結果や女性Aの精神疾患が意思疎通に支障のない程度であったこと等から、7月17日に女性Aの家族が透析治療を求めたときに、直ちに治療を始めなかったのは医師の裁量の範囲を越えた違法な処置であったと認定しました。

その上で、7月17日に適切な透析治療を開始していれば女性Aは相当期間生存できたと推認できるものの、自立生活を送ることができるまでに回復したとは認め難く、余命はさほど長くなかったと考えられるとしています。

以上のことから、裁判所はC病院の医師の過失と、相当期間生存できたはずの女性Aが7月20日に死亡したこととの相当因果関係を認めて560万円の請求を認容しました。

【控訴審】

裁判所は、7月12日の女性Aは直ちに血液透析が必要な状態であったと認められず、受け入れを一時留保し再考を促したと認められるから違法ではないとしました。

しかし、7月17日の時点で女性Aは末期の腎不全であり、救命するには血液透析以外に方法がなかったため、治療を開始しなかった点について過失があったと認定しました。

なお、女性Aが重篤な尿路感染症であった等の主張は退けられています。

以上のことから、裁判所は原審で認められた女性Aの慰謝料だけでなく女性Aの両親固有の慰謝料も認めて、660万円の請求を認容しました。

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