糖尿病等により両下肢の感覚がほとんどない患者の足元に湯たんぽを置いて使用させたために低温やけどを負わせた過失と、敗血症による死亡との相当因果関係が認められた事件

判決東京地方裁判所 平成15年6月27日判決

低温やけどとは、40~50℃程度の熱源に長時間触れることによって生じるやけどのことです。一般的なやけどは高温の物体に短時間だけ接触して生じるため、皮膚がダメージを受けたことを自覚しやすいことに対して、低温やけどでは皮膚がダメージを受けたことに気づきにくいのが特徴です。

糖尿病による神経障害等により皮膚の感覚が鈍くなっていると、痛みや熱さを感じにくくなるため低温やけどを起こしやすくなります。糖尿病では免疫力が低下することが多いため、低温やけどにより皮膚のバリア機能が失われると感染症にかかるリスクが上がってしまいます。そのため、糖尿病患者が湯たんぽや電気カーペット等を使用するときには、やけどを負わないように注意しなければなりません。

以下では、糖尿病の患者に低温やけどを負わせた過失が認められ、その結果、敗血症及び感染症により死亡したものとして、2550万円の賠償を命じられた事件を紹介します。

事案の概要

男性Aは、末梢神経障害のため両下肢の感覚がほとんどない状態であり、さらに、脳梗塞後遺症による右下半身不随でした。また、男性Aは糖尿病性腎症等により人工透析を受けていました。

10月19日、男性Aは被告病院で透析を受けているときに、足が冷えるので湯たんぽがほしい旨を申告し、職員が足元に湯たんぽを置きました。その日の夜、男性Aの右足に大きな水疱があることを家族が発見し、他院で処置を受けました。その翌日以降には、男性Aは被告病院で処置を受けました。

10月30日、男性Aは透析を受けるために被告病院を訪れましたが、歩行が困難であり高熱等の症状があったため他院に救急車で搬送されました。

搬送先において、男性Aは敗血症の疑いが極めて濃厚だと診断されて入院しました。11月10日に行われた検査の結果、男性AはMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)に感染していることが判明してバンコマイシンの投与等を受けましたが、11月25日に死亡しました。

原告らは、男性Aの足元に湯たんぽを置いて使用させたために低温やけどを負わせた過失があるなどとして、被告らに損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、糖尿病患者は感染症にかかりやすく重症化しやすいことから、被告病院の職員は感染症のリスクを高めるやけど等を負わせないように十分注意する義務があったとしました。その上で、被告病院の職員には注意義務違反の過失があると認定しました。

また、男性Aは被告病院で負ったやけどが治癒しない状態が続く中で発熱し、他院に搬送される前から敗血症が疑われており、その後MRSAに感染して状態が悪化したために死亡したと認められるため、被告病院の職員の過失と男性Aの死亡には相当因果関係があると認めました。

なお、被告らが訴訟において提出した準備書面等によって、原告らについて「ミソもクソも一所にする乱暴さはどの病院でも有名」「金銭目的の悪質なクレーマーの典型」等と述べたことについては独立した不法行為に当たるとされています。

以上のことから、裁判所は被告らの損害賠償責任を認めて2550万円の請求を認容しました。

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