遺伝性の難病に罹患した子が生まれる可能性について医師に質問したところ、医師の回答に説明義務違反が認められて、出生した難病の子に対して介護費用などの損害賠償が認められた事件

判決東京地方裁判所 平成15年4月25日判決東京高等裁判所 平成17年1月27日判決

PM病(ペリツェウス・メルツバッハ病)とは、生後1年以内に目の揺れ、発達の遅れが現れて自由に話したり歩いたりすることが難しくなる遺伝性の病気です。多くの患者さんが、生活全般に関する介護が必要となります。平均寿命は患者さんによって様々で、生まれてから直ぐに亡くなる方もいれば、成人以降も長く生きられる方もいます。子がPM病を発症した場合、次子が男子であればPM病を発症する確率は格段に高くなります。診断には、MRIなどの画像検査や脳波で聴力を見るABR検査が行われますが、残念ながら現時点で有効な治療薬や治療方法はなく、リハビリなどによりケアを行います。

以下では、PM病に罹患した子供が生まれる可能性について、医師が正確な説明をすべき義務を怠った過失があるとして控訴審まで争われましたが、医師に過失があると認められて約4800万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

原告らの第一子の子供Aは、出生1ヶ月後に目の揺れが生じたため、被告療育センターの小児科および耳鼻科の診察を受けました。小児科医によりABR検査が行われた結果、PM病の可能性があると診断されました。原告らは、子供Aの診察の際に小児科医および耳鼻科医に対して、「次の子供を作りたいが大丈夫か」と質問をしたところ、小児科医は原告らの家族に子供Aと同様の症状を持つ者がいないことを確認したうえで「経験上、この症状のお子さんの兄弟で同一の症状のあるケースはない。かなり高い確率で大丈夫。もちろん、交通事故のような確率でそうなる可能性は否定しない。子供Aの子に症状が出ることはあるが、兄弟に出ることはない」と説明を行いました。その後、小児科医は子供Aに対してMRI検査などを行った結果PM病であると確定しました。

翌年、子供Aの母は第二子を出産しましたが健常児でした。さらに1年後、第三子を出産しました。しかし、出生10日後ころに目の揺れが生じてPM病であると診断されました。

原告らは、PM病に罹患した子が生まれる可能性があったのにもかかわらず、正確な説明を行わなかった過失があるとして被告療育センターに対して損害賠償の請求を求めました。

裁判所の判断

【原審】

裁判所は、原告らがPM病に罹患している子供Aを抱えている状況で、第二子以降の子が子供Aと同様にPM病を発症する恐れがあるか否かについて重大な問題であったことは明らかであり、このような状況で原告らからの質問に対して説明を行う以上、医学的知見や自己の経験などに基づいて、適切な説明を行う義務があると指摘しました。しかし、医師が原告らに行った説明は、第二子以降がPM病に罹患する可能性は低いと誤解をさせる不正確なものであり、医学的知見に基づいた正確な説明を怠ったとして医師らに過失があると認めました。

また、原告らは第三子がPM病を発症したことによる介護費用などの積極損害(事故が起こらなければ出費しなかったであろう費用)を請求していましたが、第二子以降をもうけるかについては原告らの責任で決定すべきことであり、PM病の発症の可能性は原告らにとって非常に重要な問題ではあるが、その問題のみで第二子以降をもうけるか否かが決まるわけではないと判断されました。したがって、説明義務違反行為と相当因果関係のある損害ではないと判断して請求を認めませんでした。

結果裁判所は、説明義務違反のみを認めて被告療育センターに対して約1700万円の賠償を命じました。

【控訴審】

裁判所は、被告療育センターの説明義務については第一審と同様の判断を示しました。

しかし、積極損害について医師が第二子以降にPM症を発症する可能性があると正確な説明をしていた場合、原告らは子をもうけることを差し控えたものと認めました。したがって、説明義務違反行為と、原告らの間にPM症を発症する第三子が出生したことにより原告らに生じた損害の間に因果関係があると判断されました。

結果裁判所は、説明義務違反と積極損害を認めて被告療育センターに対して約4800万円の賠償を命じました。

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