顆粒球減少症の副作用を有する薬剤を長期間投与した患者に薬疹の可能性のある発疹を認めたのにもかかわらず、他の医療機関へ転院させず適切な検査や経過観察を怠ったことにより患者が死亡した過失が認められた事件

判決山口地方裁判所下関支部 平成元年2月20日判決 広島高等裁判所 平成7年2月22日判決最高裁判所第3小法廷判決 平成9年2月25日判決山口地方裁判所下関支部(差戻審) 不明

顆粒球減少症とは、血液中の白血球の成分のうち体内に入った細菌を貪食する好中球が著しく減少してしまい、細菌に対する抵抗力が弱くなってしまう状態のことです。初期症状として、発熱や喉の痛み、発疹、倦怠感など風邪と似た症状が現れますが、他の疾患と非常に似ているため早期の診断が難しいとされています。顆粒球減少症の原因は薬剤性が多く、顆粒球減少症が副作用とされている薬を服用している場合は、血液検査を実施して診断を下して抗菌薬を投与する必要があります。診断が遅れると、肺炎や敗血症などの重症感染症を起こして生命の危機に陥ることがあります。

以下では、顆粒球減少症の副作用を有する薬剤を投与されていた患者が薬疹の可能性のある症状が出ていたのにもかかわらず、医師が経過観察を怠り適切な処置が遅れて患者を死亡させたことについて、最高裁まで争われて病院側の過失が認められた事件を紹介します。

事案の概要

女性Aは3月14日頃から、発熱および喉の痛みがあったため開業医である被告B病院を受診しました。その際に、被告B病院は女性Aに対して顆粒球減少症の副作用を有する複数の風邪薬を投与しましたが、女性Aの症状は改善することなく被告B病院に約1ヶ月間通院しました。4月12日、女性Aは皮膚に発疹が生じていましたが被告B病院には告げず、また医師も発疹の存在には気づきませんでした。4月14日、女性Aは発疹がひどくなったため再び被告B病院へ訪れました。医師は、蕁麻疹、および当時風疹が流行中であったことから風疹を疑い、今まで使用していた薬剤の投与を中止し、被告C病院を紹介して入院することになりました。

被告C病院は、女性Aの発疹について風疹の可能性が非常に高いと判断しましたが、風邪をこじらせて弱っている状況も考えて、感染症の存在も疑い抗生物質を投与して血液検査を行いました。検査の結果、白血球の数値が減少していることが認められました。その後、女性Aは被告C病院にて納得がいく診療がなされなかったことから不信感を抱き、被告C病院を退院してD病院へ転院しました。

D病院では、女性Aに認められた発疹が通常の発疹の場合に認められるものとは異なり、長期間にわたって治療のために薬剤の投与を受けていたことなどから中毒性と診断して、これに対する治療を開始しました。しかし入院して約10日後、顆粒球減少症を原因とする敗血症に基づく内毒性ショックにより死亡しました。

原告らは、適切な診断と治療を怠ったこと、および顆粒球減少症について治療の機会を与えないまま死亡させた過失があるとして被告B、C病院に対して損害賠償の請求を求めました。

裁判所の判断

【原審】

裁判所は、被告B病院は4月14日に初めて女性Aの発疹を認めていましたが、当時風疹が非常に流行していて風疹と薬疹の判別が困難であること。また、女性Aの症状は顆粒球減少症の特有の症状は発生せず重篤な状態でなかったことを認めて、被告B病院が顆粒球減少症に罹患することを予見することは困難であったと指摘しました。被告C病院においても、被告B病院と同様で予見することは困難であったと指摘しました。

結果裁判所は、被告B、C病院に過失はないとして原告らの請求を認めませんでした。

【控訴審】

裁判所は、被告B病院の初診日から4月14日までに女性Aは発熱を繰り返し、強度の咳を訴えて受診していることからすれば、被告B病院の医師は少なくとも胸部レントゲンや痰を採取して細菌を調べるなど一般検査が実施される義務があったこと。②また、女性Aに投薬した薬には薬疹を伴うことがあることから、被告病院Bは女性Aに対して薬疹の発生の有無を問診などにより注意深く観察すべき義務があったと指摘しました。しかし①②について、女性Aの本症発症は4月14日ころと推認されており、その起因剤は4月10日に投与された薬剤が最も疑われていることから、4月14日以降に女性Aの症状が急激に進行したと憶測すると、被告B病院の通院期間中に一般検査が実施されていても顆粒球減少症の徴候が発見されていたとは認められず、本症発症による死亡との間に因果関係がないと判断しました。

結果裁判所は、控訴人らの請求を認めませんでした。

【最高裁】

裁判所は、開業医の役割は風邪などの軽度の病気の治療を行うとともに、患者に重大な病気の可能性がある場合は高度な医療を施すことができる機関へ転医させるべきであると指摘して、女性Aが風邪薬を処方されているにもかかわらず、長期わたり毎日のように通院して病状が回復せず悪化しているのであれば、医師は女性Aに必要な検査や治療を速やかに受けさせる相応の配慮をしなければならないと認めました。したがって、女性Aが4月12日に既に発疹が生じていたのにもかかわらず被告B病院はこれを見過ごしたことで検査義務および経過観察義務を怠り、客観的検査を行わなかったと過失があると判断しました。

結果裁判所は、被告B病院に注意義務がないとした原審の判断に誤りがあると指摘して原審へ差し戻しされました。

【差戻審】

裁判所は、原審および控訴審では被告らの過失を認めませんでしたが、被告B病院の一連の行動に注意義務の違反があったとして過失を認めました。

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