脱水症状の患者にイレウスの手術を行った際に、医師が患者の状態を確認せずに麻酔薬を急速に注入したことにより、患者が意識障害を起こして植物状態に陥った過失が認められた事件

判決札幌地方裁判所 平成14年6月14日判決

イレウスとは、何らかの原因によって腸の中の食べ物や消化液が移動できず詰まっている状態をいいます。イレウスの症状は、腹痛や排便の停止および嘔吐や脱水症状などが現れます。治療方針において大切なことは、血行障害が伴っていないか診断することです。通常であれば、絶食や点滴で腸管を休ませますが、血行障害が伴っている場合は腹膜炎が生じて死につながるリスクがあるため早急の手術が必要となります。また、脱水状態で全身麻酔の導入を行うと血圧低下や頻脈を起こす恐れがあるため、手術前に血液検査を行って脱水の有無を確認することが重要となります。

以下では、脱水症状の患者にイレウス手術を実施する際に、医師の過失より患者が植物状態に陥ったことが認められて、約1億1300万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

男性Aは1月25日に被告病院内科を受診したところ、結膜黄疸および皮膚黄染が認められたため被告病院へ入院することになりました。そこで男性Aは、胆石症と診断されて治療のための手術を目的に被告病院外科に転科し3月14日に手術が行われました。

術後の4月1日、下腹部痛、倦怠感、嘔気などの症状が認められたため医師が造形検査を行ったところ、イレウスに罹患していることが判明しました。その後も男性Aは大量の嘔吐や腹痛などの症状が続いたため、医師は4月4日に造形検査を行い、小腸の通過障害の改善が見られないことを確認してイレウスの手術を行うことを決定しました。医師が手術を行うために男性Aに対して麻酔薬を注入したところ、約10分後に血圧が測定不能になり、心停止が確認されました。心臓マッサージを開始して約30分後に自発呼吸が再開されましたが、男性Aは心停止が原因で脳虚血による大脳皮質障害をきたし、意識障害に陥りました。

4月5日、男性Aは意識障害が持続したままB病院に搬送されて、全身麻酔によりイレウスの手術を受けましたが、小腸の一部が既に壊死し穴が開いており、炎症が認められたため小腸を約40cm切除しました。術後も男性Aの意識障害は回復せず、再び被告病院外科に入院することになりました。

男性Aは、大脳皮質障害のため意識障害が持続し、植物状態であり、現在の医療技術においての回復は困難であると判断されました。

原告らはイレウス手術を遅延させた過失、イレウス手術までの全身状態管理を怠った過失、麻酔をする際に男性Aの全身状態を確認しなかった過失があることを理由に、被告病院に対して損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、イレウスの患者は時間の経過とともに液体が腸管内に貯留して、口側に逆流して嘔吐となって現れるため脱水が生じやすく、その脱水状態を十分に改善しないまま麻酔を施行した場合、患者がショック状態に陥る危険があるため、医師は術前に患者の全身状態を把握して、患者に脱水があれば正常に戻したうえで麻酔を施行するべきであると指摘しました。

そして、イレウス手術前日の血液検査の数値やイレウスの悪化、手術後の状態などから、男性Aは麻酔時に脱水状態が相当進行していたことが認められて、医師がイレウス手術を行うにあたり、男性Aの全身状態を慎重に観察していれば、脱水状態に陥っていることを認識することが出来たと判断しました。また、脱水状態の男性Aに対して急速に麻酔薬を注入したことで植物状態になったと認めて、被告病院の過失との間に相当因果関係があると判断しました。

結果裁判所は、被告病院に男性Aの全身状態を把握する義務を怠った過失があると認めて約1億1300万円の賠償を命じました。

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