患者の線維腺腫を乳がんと診断して乳癌手術を行った後に良性の腫瘤であったと判明して、医師が生検を行わずに悪性と診断した過失が認められた事件

判決名古屋地方裁判所 平成15年11月26日判決

線維腺腫とは、10~20代の女性に多く見られる乳腺に発生する良性の腫瘤です。症状としては、弾力性があり痛みはなく、大きさは1~3cm程で良く動くのが特徴です。線維腺腫は、触診でも診断できることがありますが、触診だけでは乳がんとの鑑別が難しいこともあるので、その場合はマンモグラフィー検査、乳腺エコーなどの画像診断を行います。画像診断で判断のつかない場合は、確定診断をするために病変の一部の組織片をとって顕微鏡で調べる生検(組織診)を行う必要があります。画像診断や生検で癌が確実に否定できれば、半年~1年に1回程度の経過観察を行います。

以下では、医師が良性の線維腺腫を乳がんと誤診して乳癌手術を施行した過失を認められて、約270万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

女性Aは、左乳房に無痛性の腫瘤があることに気づき、2月7日にBクリニックを受診したところ左乳腺腫瘤と診断されて被告C病院を紹介されました。

同月10日、被告C病院へ受診した結果、硬い腫瘤が触知されたため癌を疑いマンモグラフィー検査と、14日に乳腺エコー検査を行いました。

検査の結果、マンモグラフィー検査では腫瘤影が認められたものの、悪性としての典型的な石灰化像は認められず、乳腺エコーでは比較的鮮明な腫瘤が認められました。医師は、線維腺腫を疑いましたが、エコーに一部石灰化様の高エコーを認めたことから、悪性も否定できないと考えて同日に乳腺から穿刺液を採取して検査部に細胞診を依頼しました。

細胞診の結果、「疑陽性」と診断されました。医師は細胞診の専門医のもとへ訪れて、女性Aの細胞診の検査報告書を示して診断を仰いだところ「癌」との回答を得ました。医師は専門医の回答を意外に思ったものの、診断した専門医が細胞診の権威者であったことから、回答に疑問を持たずに、女性Aの左乳腺腫瘤を乳がんと最終診断しました。

3月4日、女性Aは被告C病院にて手術を受けました。手術終了後、切除した乳房組織にメスを入れてその割面の所見を観察したところ、悪性ではない可能性が考えられたため、腫瘍本体を病理組織検査に提出しました。病理組織検査の結果、線維腺腫であることが判明したため、医師は女性Aに対して悪性ではなかったことを報告しました。

女性Aは、時間が経つにつれて癌ではないのに手術を受けたことについて疑問を持つようになりました。また、本件手術により女性Aは左上腕に強いしびれや疼痛を感じ、左側胸部には鈍痛の後遺症が残りました。

原告らは、被告C病院の医師が生検を行わずに癌と最終判断した過失があるとして、被告C病院に対して損害賠償の請求を求めました。

裁判所の判断

裁判所は、乳癌手術は女性を象徴する乳房に対する手術であり、手術によって乳房の一部または全部を失わせることは、患者に対して身体的障害のみでなく精神面や心理面へ影響をもたらし、患者自身の生き方や生活の質にもかかわるため、医師は患者に対して乳癌手術を行う必要があるか否かを判断する際の前提となる、乳腺腫瘍が良性か悪性かの鑑別を慎重に行うべきであると指摘しました。そして被告C病院の医師は、画像診断から線維線種を強く疑い、癌の可能性は低いと判断していたにもかかわらず、専門医から癌であると指摘されて、それを鵜吞みにして、より慎重に良性か悪性かを鑑別するために生検を行うべき義務を怠ったと認めました。また、被告C病院が生検を行っていれば、女性Aの左乳腺腫瘍を癌と誤診すること、および乳癌手術を実施することもなかったと判断しました。

結果裁判所は、被告C病院に対して良性の線維腺腫を乳がんと誤診をして手術を施行した過失を認めて約270万円の慰謝料を命じました。

医療過誤のご相談受付

まずは専任の受付職員が丁寧にお話を伺います。

0120-090-620
  • 24時間予約受付
  • 年中無休
  • 全国対応

※精神科、歯科、美容外科のご相談は受け付けておりません。 ※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。