大腸レントゲン検査の際に正常構造と異なる陰影が存在していたのにもかかわらず「異常なし」と診断をしたことにより、患者が罹患していた癌の発見が遅れて死亡した過失が認められた事件

判決大阪地方裁判所 平成10年3月27日判決大阪高等裁判所 平成12年2月25日判決

大腸低分化腺癌とは、非常に稀な癌であり、全大腸癌の1.9%~7.7%とされています。そのため、症例報告が少なく初期の画像診断方法も未だ十分に解明されていません。大腸低分化腺癌の特徴としては、通常の大腸癌と比べると進行が早いため、小さいうちに発見することが難しいとされています。また、発見時は既に進行していることが多いため予後不良とされており、早期診断が重要な課題となっています。

以下では、医師がレントゲンを適切に読影しなかったことにより患者が大腸低分化腺癌により死亡したことと、その間に因果関係があることが認められて約300万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

男性Aは、平成3年ころから時々腹痛があったためB病院で大腸癌便潜血反応検査を受けたところ、便潜血反応が陽性となり被告C病院にて精密検査を受けるよう指示されました。

平成3年3月19日に被告C病院にて、精密検査として大腸レントゲン検査、血中腫瘍マーカー検査、肝機能血液検査が実施され、正常構造とは異なる異常陰影が発見されましたが、医師は再度精密検査を行うことなく「異常は認められない」と判断して男性Aへ伝えました。

その後、男性Aは時々腹痛があったため平成4年2月14日にD病院を受診して入院することになりました。そこで、大腸から肝臓へのがん転移が発見されました。しかし、救命および延命は不可能な程度に癌は進行しており、同年3月18日に男性Aは、大腸癌、多発性肝転移に基づく肝不全により死亡しました。

原告らは、被告C病院の医師が不適切なレントゲンの読影を行ったことにより、男性Aが癌に罹患していることの発見が遅れて死亡させた過失があるとして、被告C病院に対して損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

【原審】

裁判所は、精密検査の結果、詳細不明の正常構造とは異なる陰影が存在するのであれば、被告C病院の医師は、その陰影が何かを確定するために再度注腸造影検査か大腸内視鏡検査を行う必要があったことを認めました。しかし、男性Aが罹患していた癌は大腸低分化腺癌という、初期形態が未だ十分に解明されておらず、初期像を的確に診断することが困難な癌であり、非常に進行が早いため早期で発見されることがほとんどないため、被告C病院で行われた精密検査時に癌が発生していたと断定できないと判断しました。

結果、被告C病院が適切に検査を行わなかった過失と、男性Aの死亡の間の因果関係を認めることが出来ないとして、原告らの請求を棄却しました。

【控訴審】

原告らは、異常陰影について説明を受け、継続検査の必要性を指摘されていれば、本件検査後3ヶ月ないし半年後に再検査を受けて病変を発見できたのにもかかわらず、異常なしとの診断を受けたため、継続的に検査を受ける機会を奪われて、その結果癌が進行して死亡したのであるから、被告C病院の過失と男性Aの死亡との間には因果関係があるとの理由で控訴しました。

裁判所は、大腸低分化腺癌がステージⅠを過ぎた後に発見されても適切な治療を行えば、意義のある程度に長期間の延命が可能であったと認めました。また、異常陰影について、行うべき再検査をしないまま癌の疑いがないものとして判断したことは不適切な診療行為であると認めました。しかし、大腸低分化腺癌がより早く発見することができていたとしても、治療の完治あるいは10年間は生存できたものと認めることはできないと指摘しました。

結果、高等裁判所は医師の診療行為に過失があるとして、相当程度の可能性を認めて被告C病院に対して約300万円の賠償を命じました。

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