狭心症の発作を起こして通院していた患者に対して、投薬の継続が必要であった薬剤の投与を中止し変更した過失により患者が死亡したと認められた事件

判決千葉地方裁判所 平成17年5月30日判決

冠れん縮性狭心症とは、狭心症の一種です。夜間や早朝の安静時に、心臓の筋肉に血液を送っている血管が痙攣により狭くなり、強い胸の痛みや圧迫感などの発作が起こる病気です。

治療方法は、主に発作を予防する目的で薬物療法が行われます。冠れん縮性狭心症の発作は一時的なもので、時間と共に痛みが治まりますが、発作時の痙攣が長く続くと心筋梗塞を引き起こす可能性があるため、早期に発見し治療に繋げることが重要となります。

以下では、患者が冠れん縮性狭心症の疑いがあったのにもかかわらず、投薬の継続を中止し変更した過失によって患者が死亡したと認められて約5100万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

7月3日、男性Aは胸痛発作を生じてBクリニックに搬送されました。心電図検査を受けた結果、精密検査を勧められて被告C病院を紹介されました。

同日、男性Aは被告C病院を受診してD医師の診察を受けました。D医師は胸部単純X線検査を実施したところ、症状から狭心症の可能性はあるが、はっきりしないと男性Aに説明をして、狭心症治療薬であるニトログリセリンを処方して帰宅するよう指示しました。

7月4日、男性Aは2回にわたり胸痛発作を生じましたが、ニトログリセリンを舌下投与したところ軽快しました。

7月5日、早朝より再び胸痛発作を生じたため被告C病院にてE医師の診察を受けて入院を希望しましたが、E医師は、狭心症の治療薬アイトロール錠とアダラートを処方して帰宅するよう指示しました。帰宅後、男性Aは激しい腹痛および下痢を発症したため、翌日E医師から処方されたアイトロール錠とアダラートの服用を中止しました。

7月7日、自宅で強度の胸痛発作を起こして失神状態に陥りましたが、ニトログリセリンを舌下投与して軽快しました。

7月9日、被告C病院へ受診してE医師は7日の発作の様子を聞き、冠れん縮性狭心症の可能性が高いと診断しました。そして、アイトロール錠とアダラートの服用を中止しないようにと指示をして帰宅させました。

同日から8月8日までの間、アイトロール錠とアダラートの服用を継続したところ胸痛発作は1回も生じませんでした。

8月9日、被告C病院を受診してF医師の診察を受けました。F医師は男性Aの担当医師ではありませんでしたが、担当医師が不在であったため代診として担当しました。F医師は、7月9日以降の診療録を確認しましたが、同日以前の診療録を確認せずに、アイトロール錠の服用量を減量してアダラートの服用を中止するよう指示をして、男性Aは指示に従って服用量を変更しました。

しかし8月11日、男性Aは自宅でこれまでにない激しい胸痛発作を起こして、被告C病院にて死亡が確認されました。死因は、急性心不全と診断されました。

原告らは、男性Aの死亡について、投薬の継続が必要であったのにもかかわらず医師が服用の変更をした過失があるなどとして、被告C病院に損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、男性Aの発作は冠れん縮性狭心症の臨床的特徴に該当するものであり、また診療経過においても、7月9日にE医師が冠れん縮性狭心症の可能性が高いと診断していたことを併せるとF医師が診察した8月9日時点においても男性Aの症状が、冠れん縮性狭心症に罹患している可能性が高いと認めました。

そして、F医師が男性Aを診察した際に、前任医の診療内容の確認を怠ったことにより、冠れん縮性狭心症の可能性があると知らず投薬変更を指示した過失があると判断しました。

また、男性Aはアイトロール錠およびアダラートの服用を継続していた期間は1回も発作を起こしていなかったのにもかかわらず、服用を中止した後に、強度の胸筋発作を発症している経緯があることが認められるため、F医師が従前どおりアダラートの投与を継続していれば男性Aの死亡は回避できたと判断しました。

結果裁判所は、投与の継続が必要であった薬剤を中止したことにより男性Aを死亡させた過失があるとして、被告C病院(F医師)に約5100万円の賠償を命じました。

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