急性膵炎の合併症を起こした患者に対して、重症化に対する注意義務を怠ったことにより、集中治療の開始が遅れて患者が死亡した過失が認められた事件

判決名古屋地方裁判所 平成16年9月30日判決

ERCP検査とは、カメラを口から入れて十二指腸まで進め、胆管や膵管に直接細いチューブを挿入して、造影剤を注入して膵管や胆管のX写真を撮ることで、直接見ることのできない管の中の腫瘍や結石などを調べる検査です。

ただ、ERCP検査は合併症の起こりやすい精密検査です。合併症として最も多いのが急性膵炎で、全体の3~5%程度に起こるとされており、急な上腹部や背中の痛みや吐き気などの症状が現れます。ほとんどは軽症で数日間の入院の延長で改善しますが、時に重症化して命に関わることもあるため迅速に治療を開始する必要があり、血液検査や画像検査などにより重症度を判定します。

治療としては、絶食や水分の輸液、薬物療法などが行われ、重症の場合は血液透析などが行われます。ERCP検査を行う際は、有効性と合併症のリスクを考慮したうえで適応を決定する必要があります。

以下では、ERCP検査後に患者が急性膵炎を発症していたにもかかわらず、基本的治療を怠ったことにより患者が死亡した過失が認められて約5400万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

男性Aは7月末ころ、上腹部から下腹部にかけて疼痛が現れたためB病院を受診したところ、胆石症と診断されました。

その後、Cクリニックに通院をして治療を受けていましたが、上腹部痛が再発したため被告D病院を紹介され同日に受診しました。男性Aは再び胆石症と診断されて、胆石の精査、手術を目的として被告D病院に入院することになりました。超音波検査が実施された結果、直径18.5mmの大きさの胆のう結石と総胆管の拡張が認められました。医師は、総胆管造影を目的としてERCP検査を実施するため男性Aから同意を得ました。

9月20日のERCP検査当日、造影剤を注入して膵管の造影をした後、胆管の造影を試みましたが、胆管像を得ることは出来ず、膵管のみの造影で検査を終了しました。

検査終了後、男性Aは軽度の胃部不快感、腹痛、嘔気を訴えたため鎮痛剤を投与しましたが、症状は改善しませんでした。男性Aには腹痛と腹部膨満感があり、吐き気が強かったことから医師は急性膵炎の発症を疑い、胃内容物を吸引して点滴を開始しました。

検査翌日も男性Aの上腹部痛は続いており、同日実施された血液検査の結果、血清アミラーゼ値が高値を示していました。

9月22日、朝から腹痛が続いていましたが、夕方ころから発汗があり、血圧が低下傾向となったため当直の医師が診察を行いました。その後、血圧が低下して男性Aはショック状態に陥りました。CT検査が実施された結果、お腹に水が貯まっていることが判明しました。

そして、男性Aの症状から重症膵炎と診断して集中治療室に移しました。

9月23日、男性Aは多臓器不全になり、9月24日から人工呼吸が開始され、9月26日からは人工透析が開始されました。

11月5日、昏睡状態にとなって、11月10日に男性Aは死亡しました。

原告らは、重篤な急性膵炎を合併する危険性があるERCP検査を実施するにあたり、危険性などの具体的内容の説明や、急性膵炎に対する基本的治療を怠った過失があるとして、被告D病院に対して損害賠償の請求を求めました。

裁判所の判断

裁判所は、急性膵炎について、初期の対応の遅れや、不適切な治療は膵炎重症化の原因として重要であることから、急性膵炎が疑われたら、まずは基本的治療を行い、重症と判定されれば直ちにICUでの全身管理と集中治療を行う必要があると認めました。

しかし、被告D病院の医師は、男性Aに対して9月20日に急性膵炎の疑いを持っていたのにもかかわらず、膵炎の重症度判定に用いられている血液検査や画像検査を行いませんでした。その点について、病院の重症化に対する対応に、注意義務が欠けていたと判断しました。また、9月21日の時点で、重症かどうか、集中治療を開始するかなど、緊張感を持って診断を行っていれば、男性Aは1日早く集中治療を受けることができたため、救命の可能性があったと判断しました。

その結果、裁判所は、急性膵炎の重症化に対する対応について注意義務違反があると認めて、被告D病院に対して約5400万円の賠償を命じました。

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