C型肝炎ウイルスに感染していた患者が肝細胞がんを発症して死亡したことについて、医師が適切な専門医療機関へ転医を行わなかった過失が認められた事件

判決横浜地方裁判所 平成17年9月14日判決

C型肝炎は、ウイルスの感染により起こる肝臓の病気です。一般的な感染経路は、感染している人の血液を用いた輸血や、汚染された注射針による医療行為、出血を伴う性交渉などが原因と考えられます。C型肝炎は自覚症状が感じにくいため、ほとんどが感染に気付かずに無症状で過ごしています。仮に症状が出ても、倦怠感や発熱などの軽度である場合がほとんどです。

しかし、C型肝炎を放っておくと慢性肝炎、肝硬変、肝細胞がんへと進行して、目が黄色くなる黄疸という症状が出現したり、お腹に水がたまる腹水によってお腹が膨らんだりすることがあります。治療をせずに放置していると、最悪の場合死に至るリスクがあるため注意が必要です。

C型肝炎ウイルスに感染しているかどうかは、血液検査によって調べます。感染が確認されれば、肝臓の専門医療機関を受診して肝炎がどのくらい進行しているかを確認して適切な治療を受けることが重要となります。

以下では、医師がC型肝炎ウイルスに感染していた患者に対して、適切な専門医療機関への転医を勧告すべき義務を怠った過失が認められて、約3400万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

男性Aは、平成7年3月に肩部痛と発熱の症状があったため、B病院を受診して入院したところ、腹部レントゲン上の肺に異常影がみられ肺がんが疑われました。男性Aは、被告C病院を紹介されたため3月28日に受診したところ、臨床化学検査の結果、総コレステロールなどが基準値外の数値を示して、男性Aの指が太鼓のばちのように太くなり、爪が丸みを帯びた状態が確認されたため、4月5日から入院することになりました。

被告C病院では、肺がん有無の精査の前に、男性Aに感染症があった場合の他患者への感染防止対策を目的としてC型肝炎ウイルス抗体反応検査を実施しました。同月7日、男性AがC型肝炎ウイルスに感染していることが判明し、その旨が男性Aの診療録に複数個所にわたって記載されました。その後、肺がんの有無を確認するために気管支鏡検査などが行われましたが、肺がんを疑わせる所見は見つかりませんでした。被告C病院の医師らは、肺の異常影は慢性炎症によるもであった可能性が高いと判断して、男性Aを一旦退院させ、定期的に外来するように指示しました。

男性Aは、その後、定期的に被告C病院の外来を受診していましたが、外来の医師は男性AがC型肝炎ウイルスに感染していることを認識していませんでした。

平成10年5月ころ、男性Aに下肢浮腫、腹水、肝臓硬化、眼球の黄疸などの症状が現れたため、CT検査などを行った結果、肝細胞がんの発症が強く疑われて男性Aは6月2日にD病院へ転医されました。

D病院の医師は、男性Aについて肝細胞がんの末期状態であって生命予後が期待できない状態であると判断しました。

そして、男性Aは6月18日に食道静脈瘤の破裂により大量出血し、翌日に死亡しました。

原告らは、被告C病院の医師らが男性AのC型肝炎ウイルスの感染の事実を見落として、適切な専門医への転医を勧告すべき義務を怠ったことにより、男性Aを死亡させた過失などがあるとして、被告C病院に対して損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、①C型肝炎は死亡の可能性がある危険な疾患であり、放置すると時間の経過により肝硬変や肝細胞がんへ進行する恐れがあるため、患者に対してC型肝炎の進行度を調べる検査を受けさせる必要があること。②またC型肝炎は、進行を遅らせる種々の治療法が存在するため、進行度と年齢に応じて必要な範囲で治療が実施されるべきであり、C型肝炎が進行して肝硬変に近い段階であれば肝細胞がんの危険性があるため、定期的に画像診断などを受けさせて肝細胞がんの発見に努めるべきであることを認めました。

その上で、3月28日時点で臨床検査の結果が基準値外の数値を示して、太鼓のばちのような指がみられるなど、肝機能が悪化していることを強くうかがわせる所見が得られていたのであるから、男性Aは種々の検査および治療を受けさせる必要性が高い患者であったと認めました。

そして、被告C病院は循環器を専門とした医療機関であり、肝細胞がんの検査および治療のための設備が十分でなかったのであるから、C型肝炎に感染していることが判明した4月7日以降に、男性Aに対して肝臓疾患を専門とした医療機関へ転医を勧めるべきであったと判断しました。また、適切な医療機関へ転医していた場合、病気を完治させ死を回避することは出来ないが、死期を遅らせることは出来た可能性があることを認めました。

結果裁判所は、被告C病院が転医勧告の義務を怠った過失があることを認めて約3400万円の賠償を命じました。

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