医師が細胞診において、良性の腫瘍を乳がんと誤診して乳房切除手術を行った過失が認められた事件

判決東京地方裁判所 平成18年6月23日判決

乳がんとは、乳腺の組織に出来る悪性腫瘍です。早期に見つかった場合90%以上は治りますが、進行すると骨、肺、肝臓など乳房以外の臓器に転移して、様々な症状をひきおこして最悪の場合は死に至ります。

乳がんの検査は、視診、触診、マンモグラフィ、超音波検査を行います。そして乳がんの可能性がある場合は、細胞診や組織診を行います。

細胞診は、しこりなどの病変部の細胞を採取して、顕微鏡を使って診断します。細胞診の結果は5段階に評価されて、クラス1、2は良性。クラス3は良性・悪性ともに言い難い。クラス4、5は悪性と分類されます。また細胞診は、身体への負担は少ないですが、がんでないのにがんと誤診されたり、がんなのに見落とされることがあるため細胞診だけで最終診断するのではなく、組織の一部を採取して調べる組織診を行うケースが増えています。組織診の技術は年々高まっており、細胞診より正確な判断が出来るといわれています。

以下では、医師が良性の腫瘍を乳がんと誤診をして乳房切除手術を行った過失が認められて、約3200万円の賠償が命じられた事件を紹介します。

事案の概要

女性Aは、乳がん検診を受診したところ、左の乳腺に腫瘤があることを指摘されました。

さらに女性Aは、B病院の診察を受けたところ、触診およびエコー検査によって腫瘤が確認されました。

女性Aは、B病院の医師から被告C病院を紹介されたため再度診察を受けて、触診、エコーマンモグラフィー、吸引細胞などの検査を受けました。結果、マンモグラフィによっては、がんは描出されませんでしたが、細胞診によって採取された検体の結果、クラス5と診断され、医師は女性Aに対して左乳腺腫瘤はがんであったと報告をして、乳房を切除する手術を行うことが決定されました。

後日、被告C病院の医師により乳房切除手術が行われました。そして、手術後に組織診および細胞診が行われて、被告C病院病理部内で検討した結果、女性Aの左乳腺腫瘤は、がんではなく良性の腫瘤であったことが判明しました。女性Aは、乳房切除手術によって浮腫みや右肩が上がらないという後遺症が残存しました。

原告らは、良性の腫瘤について、乳がんと誤診をした過失があるなどとして、被告C病院へ損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、クラス5との診断は悪性であることの疑いを超えて、確信に至ったものであるから、クラス5というためには診断時の所見に照らして、悪性と診断できる確実な根拠があることが必要であると指摘しました。

そのうえで、細胞診の検体から良性の可能性も否定できず、さらに組織診などによって再度精査すべきであったのにもかかわらず、良性の可能性を疑うこともなく悪性であると判断した点において、細胞診の診断を誤った過失があることを認めました。

また、女性Aは乳房切除手術によって、肩関節の可動域が制限される後遺症が生じたことにより労働能力が喪失したとして逸失利益(事故がなければ将来得られたであろう収入)を認めました。

結果裁判所は、乳癌の診断を誤った過失を認め、被告C病院および被告C病院の医師に対して約3290万円の賠償を命じました。

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