健康診断の際に医師が肺の陰影を見落としたことにより、肺がんの発見が遅れて患者の5年後の生存率を低下させた過失が認められた事件

判決東京地方裁判所 平成18年4月26日判決

肺がんとは、肺にできるがんのことで、がんの中でも最も死亡率が高いといわれています。肺がんは、喫煙などが原因で肺の気管、肺胞が何らかの原因でがん化したものです。初期の段階では症状が現れないことがあり、病状が進行して周囲の臓器に転移することで、初めて症状が現れることがあります。また、肺がんと診断された後の5年の生存率は平均40%程度で、初期の段階では80%程度、末期では5%となっているため、早期の発見と早期の治療が非常に重要となります。

以下では、医師が肺の陰影を見落としたことにより肺がんの発見が遅れて、患者の5年の生存率が低下した過失が認められた事例を紹介します。

事案の概要

女性Aは、被告B病院で健康診断を受診しました。その際に、胸部X線の撮影をしたところ、肺に1㎝の異常陰影が存在していましたが、医師は女性Aに対して、胸部X線に異常はないと判断してその旨説明をしました。

しかし、女性Aは翌年C病院で健康診断を受診したところ、肺に腫瘍の疑いがあると指摘されたため、D病院を紹介されて胸部CT検査を受けました。結果、腫瘍を疑われて早期に手術をすることを勧められました。

女性Aは、E病院で胸部へ胸腔鏡と呼ばれるカメラを入れて、モニター画面に映る映像を見ながら右肺下葉を切除する手術を受けました。切除した腫瘍の病理診断は、肺がんであり、進行度部類はステージ2で、リンパ節転移は1群まで存在していました。

原告らは、医師が肺の陰影を見落とした過失があるとして、被告B病院に対して損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、女性Aが被告B病院を受診して健康診断を受けた時点で胸部X線の所見から見て、肺がんステージ1(初期)であろうと指摘しました。また、E病院で右肺下葉の切除術を受けた後の進行度部類はステージ2になっていたことが認められるから、それぞれの5年の生存率は72%と42%であり、肺がんの発見が遅れた間に女性Aの術後5年の生存率が30%低下したと判断しました。

さらに、女性Aが抱いている死への不安や恐怖は、本件見落としがなくても生じていたものではあるが、本件見落としによってさらにその程度が高まったものして精神的損害を認めました。また、仮に将来女性Aに肺がんが再発して、死亡の結果が生じた場合には、その死亡の結果と被告B病院の医師の過失との間に因果関係が認められるから、改めて損害賠償請求義務が発生すると判断しました。

結果裁判所は、被告B病院に対して陰影を見落とした過失を認めて、450万円の賠償を命じました。

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