腸閉塞の症状がある患者にカテーテルを留置したところ、カテーテル感染症から敗血症に陥り死亡したことについて、医師が早期にカテーテル感染症を疑ってカテーテルを抜去すべき義務を怠った過失が認められた事件

判決東京地方裁判所 平成18年11月22日判決

IVHカテーテル(中心静脈カテーテル)とは、通常の点滴とは異なり、首や腕などにある静脈から心臓に直接流れ込む太い静脈へと挿入する点滴用の管のことです。カロリーの高い点滴を血管から投与する場合や、点滴で長期間の栄養投与が必要な場合に使用します。

IVHカテーテルの最も多いトラブルは、感染症です。身体の外と中が管でつながるため、チューブ挿入部の皮膚から細菌が侵入して感染症が生じ、全身に炎症が広がり重篤化する場合があります。カテーテルを挿入後、発熱した場合は、カテーテルの感染症を疑い、カテーテルの抜去および入れ替え、抗生物質の投与などを検討することが重要です。

以下では、患者がカテーテル感染症により死亡したことについて、医師の過失が認められて約1300万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

女性Aは、足元がふらつき、頭痛があると訴えて4月8日に被告B病院を受診しました。被告B病院で脳CT検査を受けたところ、脳に腫瘍および梗塞が認められ入院することになりました。入院後、脳腫瘍は大腸がんの転移であることが判明しました。また、医師は、女性Aが腸閉塞直前の状態と判断して、絶食を指示したうえで、IVHカテーテルを留置して高カロリー輸血を行いました。

5月8日、女性AはC病院に転院して脳腫瘍の手術を受けて、翌日には被告B病院に帰院しました。

同月22日、被告B病院において、大腸がんの摘出手術が行われて特に問題なく終了しました。しかし8日後、女性Aは左腹部が少し痛いと訴えて、発熱が生じました。医師は、IVHカテーテル感染症および腎臓の炎症とともに、縫合不全を疑い、胸部および腹部のレントゲン検査を行いましたが、異常を示す所見は認められず経過観察としました。

同月31日にはIVHカテーテルの摘下不良が見られるようになりました。

6月1日、発熱と、再度IVHカテーテルの滴下不良が生じたため、医師は翌日にカテーテルを入れ替えることを指示して、そのままカテーテルを留置しました。

同月2日、IVHカテーテルの入れ替え処置を行い、抜去したカテーテルにカンジダ菌が検出されましたが、その報告は同月4日以降にありました。

同月3日、医師は他の医師に相談のうえ、IVHカテーテルを抜去して点滴を行いました。その後、女性Aは腎不全および心不全であると診断しましたが、医師らは被告B病院での治療は不可能だと判断してD病院へ転院させました。D病院で血液検査を行ったところカンジダ抗原が検出されたことから、カンジダを原因とするカテーテル感染症と診断されて、抗真菌薬が投与されました。

その後、ICUでの治療が行われて、女性Aの全身状態は徐々に改善しましたが、肛門近くの腫瘍から下血していることが判明したため腫瘍切除術が行われました。しかし、その後も下血が継続して同年12月に女性Aは死亡しました。死因は、カテーテル感染症による敗血症とそれに続発する、腎不全および心不全とされました。

原告らは、女性Aが死亡したことについて、カテーテル感染症を疑ってIVHカテーテルを早期に抜去しなかった過失があるとして、被告B病院に対して損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、長期にわたるIVHカテーテルの留置は、感染症の危険性があること、女性Aは癌患者で免疫の機能が低下して細菌に感染しやすくなっている状態にあったことからして、カテーテル感染などの感染症について留意すべき状態にあったこと、5月30日以降の発熱およびIVHルートの滴下不良は、カテーテル感染症を強く疑わせる所見であり、カンジダによるカテーテル感染症を発症していたことを認めました。

そして、カテーテル感染症の治療として、まずはカテーテルを抜去すべきとされていることを根拠として、5月31日にIVHルートの滴下不良が見られた時点で、IVHカテーテルを早期に抜去すべきであったと判断しました。また、早期にカテーテルが抜去されていれば、女性Aは敗血症までには至らず経過も良好であったことを認めて、被告B病院の過失と女性Aの死亡との間に相当因果関係があると判断しました。

結果裁判所は、被告B病院がカテーテル感染症の対処を怠った過失を認めて、約1300万円の賠償を命じました。

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