自宅の階段で転倒した患者が急性硬膜下血腫を原因として死亡したことについて、医師が頭部外傷を疑って頭部CT検査を実施するなどの注意義務に違反した過失が認められた事件

判決東京地方裁判所 平成18年7月13日判決

急性硬膜下血腫とは、頭部に強い力が加わることで脳を覆う硬膜と脳との間に出血が生じて、血腫となる病気です。急性硬膜下血腫のほとんどは、頭部外傷によって発生します。

頭部外傷直後、刺激や呼び掛けに反応しない、状況を正しく認識できないという意識障害が起こり得ます。また、外傷を負った場所により、頭痛や嘔吐、めまいなどが生じることもあります。

急性硬膜下血腫の治療は、主に頭部CTで評価します。小さな血腫であれば、血液が自然に吸収されるため、多くの場合治療は不要です。血腫が急激に大きくなり、記憶が曖昧であったり、身体に麻痺などの症状があるような場合等は、救命のために早急に頭蓋骨に穴を開けて血腫を除去し、出血場所を止血する手術を行う必要があります。適切に治療を受けることができず治療の時期が遅れると死に至る可能性があるため早期発見と早期治療が重要となります。

以下では、医師が頭部外傷を疑い頭部のレントゲン検査、CT検査を実施するなどの注意義務に違反した過失が認められて約1500万円の賠償が命じられた事件を紹介します。

事案の概要

男性Aは、自宅の外階段で転倒して座り込んでいたところを、帰宅した妻に発見されて救急車で被告B病院に運ばれました。

搬送後、直ちに被告B病院の医師による診察を受けました。男性Aは、自宅の外階段で転倒した旨を告げるとともに左手および左股関節痛を訴えたため、股関節、手指、胸部のレントゲン検査および骨盤のCT検査が行われました。その結果、左大腿骨頚部骨折および骨盤骨折の疑いと診断されました。医師は、男性Aに対して頭や首などを打っていないかと質問をしましたが、男性Aは打っていないし痛くもないと明確に答えたため、頭部については、レントゲン検査やCT検査は行われませんでした。そして、男性Aは安静および経過観察を目的として入院となりました。

しかし数時間後、男性Aの意識レベルが低下して声掛けに反応がないという状態に陥ったため、直ちに頭部のレントゲン検査およびCT検査を受けた結果、頭蓋骨骨折、硬膜下血腫、脳室内出血が確認されたことから、脳神経外科のあるC病院に転送されました。

C病院では、頭蓋骨骨折、脳挫傷、硬膜下血腫が確認されたため、緊急手術として、頭を大きく開け、血腫を除去する手術が行われましたが、男性Aは意識が回復しないまま死亡しました。

男性Aの死因は、本件転倒事故で頭部を打った際の頭部外傷による急性硬膜下血腫であると診断されました。

原告らは、男性Aが死亡したことについて、被告B病院の医師が診察時に頭部外傷を疑って頭部のレントゲンないしCT検査を実施するなどの注意義務を怠った過失があるとして、被告B病院に損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、被告B病院での診察時において、外傷性健忘(外傷直後の記憶障害)も念頭に置いて、転倒事故の経過などを具体的に質問するなどした上で、外傷性健忘の疑いがあり頭部外傷の可能性がある場合は、その有無を確認するために頭部のレントゲン検査もしくはCT検査を行うべきであると診療上の注意義務を認めました。

その上で、男性Aは頭部を頭蓋骨骨折が生じたほどの強さで打っていたことが明らかであるのに、医師からの問診時には頭を打っていないと明確に答えていたことから、その時点で外傷性健忘が認められると指摘しました。そして、医師が男性Aに対して転倒事故の経過などを具体的に質問していれば、外傷性健忘を疑い頭部外傷の可能性を考慮して、頭部レントゲン検査もしくはCT検査が実施されることになったであろうと判断して、診療上の注意義務を怠った過失を認めました。また、注意義務違反が無ければ男性Aは救命された可能性が高いと認めました。

結果裁判所は、被告B病院が診察時に頭部外傷を疑って頭部のレントゲン検査もしくはCT検査を実施するなどの注意義務に違反した過失を認めて、約1500万円の賠償を命じました。

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