狭心症の患者に経皮的冠動脈形成術(PTCA)を行った直後に急性冠閉塞が発症して低酸素状態に陥り死亡したことについて、医師が処置の選択を誤った過失が認められた事件

判決松山地方裁判所 平成15年9月16日判決高松高等裁判所 平成16年7月20日判決

経皮的冠動脈形成術(以下、PTCA)とは、開胸手術をせずに手首の血管から管を入れて、その管の中にもう一つ先端に風船の付いた管を挿入して、狭くなった冠動脈を血管の内側から広げる治療法です。主に、急性心筋梗塞や狭心症の治療に使われる術式です。

PTCAに伴う大きな合併症は、急性冠閉塞による心筋梗塞です。急性冠閉塞は、冠動脈が血の塊によって狭くなったり塞がったりして、心筋の血液が不足した状態をいいます。PTCA施行中またはPTCA施行後に急性冠閉塞が発症した際は、閉塞した動脈の血流を回復できるように、患者の症状に合わせて迅速かつ適切な対応が重要となります。

以下では、PTCA後に急性冠閉塞を発症した患者に対して、医師が処置の選択を誤ったことにより患者を死亡させた過失が認められて約7300万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

男性Aは被告病院を受診し、不安定狭心症と診断されて心臓カテーテル検査を受けたところ、冠動脈のうち左前下行枝近位部に83%の搾取、および左回旋枝に4つの搾取が検出され、2枝病変であることが判明しました。男性Aの病変は実質的には3枝病変に匹敵する重症病変でした。また、男性Aは肥満体であり糖尿病を患っていました。

被告病院の医師らは経皮的冠動脈形成術(以下、PTCA)の適用があると判断して施行することを決定しました。

手術当日、PTCAが終了して心臓カテーテル室を退出した直後、男性Aが胸の違和感を訴えたため、医師らは再び男性Aをカテーテル室に搬入しました。そして、緊急心臓カテーテル検査を行って左冠動脈造影を施行したところ、2分後に心原性ショックおよび全身の間代性の痙攣が起こり急性冠閉塞が認められました。医師らは、心臓マッサージおよび循環補助のための大動脈バルーンパンピングを実施しつつ、再度PTCAを試みましたが、男性Aは血行動態が落ち着くまでに低酸素状態に陥り、意識が回復しないまま死亡しました。

原告らは、男性Aの容態急変後の処置における過失があったなどとして、被告病院に対して損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

【第一審】

裁判所は、左冠状動脈造影が施行された2分後に男性Aがショック状態に陥ったころには、医師らはPTCAによる合併症の部位・程度を把握して冠動脈の血行再建のために必要な措置をとることが出来る状態にあったことを認めました。

その上で、被告病院の医師らは冠動脈の血行再建に加え、PCPS(人工心肺装置により、大腿動静脈経路で心肺補助を行うもの)による循環器補助の措置を行うことを考慮すべきであり、男性Aがショック状態に陥ったころから、PCPSの装着に取り掛かっていれば脳障害が生じることはなく、死亡することもなかったと判断しました。

結果裁判所は、PCPSを装着しなかった過失を認めて被告病院に対して約7300万円の賠償を命じました。

【控訴審】

被告病院は、男性Aに施した心肺蘇生術の手技は日本救急医学会マニュアルに定められた救命措置が適切に行われたものである上、PCPS装着は時間がかかるので、男性Aがショック状態に陥った際に既に呼吸停止状態にあったのであるから、PCPSを装着できたとしても脳に機能障害が生じることは不回避であったとの理由で控訴しました。

しかし裁判所は、①男性Aは、三枝病変で糖尿病を合併していたから、重症多枝病変として術式選択を行うべきと指摘して、重症多枝病変の場合の通常の術式選択は、CABG(冠動脈バイパス術)が第一選択であることを認めました。②また、男性Aの症状からすれば、補助循環装置を装着することが、心肺機能の蘇生に必要であったが、大動脈内バルーンパンピングでは十分ではなく、PCPSを装着するべきであったと認めました。

結果、被告病院の医師らは男性Aの症状からしてCABGを第一選択すべきであったのにPTCAを第一選択したこと、および急変後速やかにPCPSを装着すべき義務を怠ったと判断しました。

裁判所は、第一審の判断を維持し、被告病院に対して約7300万円の賠償を命じました。

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