喘息の治療薬を投与した患者が中毒症状を起こしたため、医師が治療のためにカテーテルを挿入したところ血管を損傷させたことにより患者が死亡した過失が認められた事件

判決千葉地方裁判所 平成18年9月11日判決

テオロング(テオフィリン)とは、強力な気管支拡張作用があり、喘息や気管支炎などの咳や息苦しさなどを改善する薬です。テオロングは、体調が良くなったと自己判断して使用を中止したり、量を加減したりすると病気が悪化することがあるため、指示通りに飲み続けることが重要となります。また、過剰に摂取するとテオフィリン血中濃度が高値になり、嘔吐、頭痛、意識障害、頻脈などの中毒症状が現れることがあります。中毒症状が認められた場合は、消化管内に残存するテオフィリンの除去とし胃洗浄、下剤の投与などを行い、また血中テオフォリンの除去として、輸血による排泄促進、血液透析などを行う必要があります。

以下では、テオロングを服用していた患者がテオフィリン中毒に陥り死亡したことについて、医師の手技の過失が認められて約4000万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

小児Aは、従前から喘息の治療のため被告病院に入通院していて、テオロングの処方を受けていました。

小児Aは、1月1日にテオロングを服用した直後に嘔吐などの症状を訴えたため、被告病院を受診して診察を受けました。医師が血中テオフィリン濃度の検査をしたところ致死量域を超える高値であることが判明しました。

医師は、小児Aの症状からテオフィリン中毒と判断して、胃洗浄、活性炭投与を実施したうえで、抗擬固剤としてフサンを用いて血液吸着療法を実施しましたが、回路内で血液凝固を起こしました。医師は、抗擬固剤をヘパリン1000単位に変更して、血液吸着療法を実施しましたが再び血液凝固を起こしました。

その後、小児Aは全身性硬直痙攣発作を起こしたため、中心静脈ラインを確保するために、右鼠径部にカテーテルを挿入したところ、シリンジ内で血液の塊ができ、その数分後から血尿が出現しました。医師は、肺塞栓の可能性を考えて、ヘパリン5000単位を投与しましたが血圧が低下したため、小児AをICUに収容して、治療と並行して輸血のために交差適合試験(患者と輸血用血液製剤との適合性を確認する輸血前の検査)を行いましたが、結論が出ませんでした。

その後、小児Aの心拍が低下したため、心臓マッサージや救急治療の薬を投与するなどと治療を行いましたが、小児Aは死亡しました。

死亡診断書では、死因は出血性ショックによる肺出血とされましたが、病理解剖の結果ではテオフィリン中毒による急性左室不全および出血性ショックとされました。

原告らは、小児Aが死亡したことについて、被告病院の医師がカテーテル挿入の際に、血管を損傷した過失があるなどとして、被告病院に対して損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、①小児AのCT画像および腹部単純写真において、カテーテルが右大腿静脈および下大腿静脈内に認められないこと。②CT画像において、カテーテルを中心に血腫の形成が認められること。③造影後のCT画像において、カテーテル周囲の血腫内に造影剤の血管外漏出が認められて、出血が疑われること。などを指摘して、カテーテル挿入時に血管損傷が生じたことを認めました。

また、カテーテル挿入以前に2回にわたり血液吸着療法が実施され、その際に血液をサラサラにする抗擬固剤が投与されたことにより出血しやすい状況にあったことを考慮して、血管損傷による出血が出血性ショックの原因であったことを認めて、血管を損傷した過失と死亡との間に因果関係があると判断しました。

結果裁判所は、医師の手技の過失を認めて被告病院に対して約4000万円の賠償を命じました。

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