医師がギラン・バレー症候群の患者を他院へ転送する際に、転送時期と転送する際の呼吸管理に過失があったとして損害賠償が認められた事件

判決福岡地方裁判所 平成19年2月1日判決

ギラン・バレー症候群とは、脳や脊髄から身体の隅々まで張りめぐらされた末梢神経の障害により、四肢や顔、呼吸器官などに麻痺が起こり、年間で10万人に1、2人がかかるというまれな病気です。

病気の原因ははっきりと解明されていませんが、細菌などによる感染症がきっかけとなって、免疫機構が活発になり自分自身の末梢神経を攻撃してしまうことが原因として考えられています。

症状としては、脱力感や痺れ、顔面神経麻痺、脳神経障害などが現れます。急速に症状が進行することが特徴で、通常4週間以内に症状はピークとなり、その後回復に向かうことが多いとされています。

また、治療の開始が早いほど回復、完治の可能性が高まり、一般的には点滴や血液中の病気に関係する物質を取り除いてから体内に再度戻す治療が行われます。

呼吸器官の麻痺や不整脈などの重い症状が出ている場合は、人工呼吸器の使用を含めた全身管理が必要となり生命にかかわる場合もあるため注意が必要です。

以下では、医師がギラン・バレー症候群で入院中の患者に対し、他院への適切な転送時期と、転送の際の呼吸管理を誤った過失が認められて約8700万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

男性Aは、起床時から目が見えにくく物が二重に見えるようになり、歩行障害もあったため被告B病院を受診し入院したところ、ギラン・バレー症候群と診断されました。

入院後、男性Aは呼吸が不規則になり、四肢麻痺および眼球麻痺などを発症したため、血漿交換療法、免疫吸着療法、気道確保のために気管切開をして人工呼吸を行いましたが、一向に回復しなかったためC病院に転院することになりました。

転院当日、医師、看護師、男性Aの家族らの付き添いの下、航空機で転送されました。到着後、民間救急車が空港まで出迎え男性AはC病院に搬送されました。

しかしC病院に到着後、男性Aは無呼吸状態に陥り心停止が確認されました。心臓マッサージなどにより、一命は取りとめたものの、無酸素脳症による意識障害が残り、入院して寝たきりの状態であるうえ、ほぼ植物状態であると判断されました。

原告らは、適切な転送時期を選択すべきであったのにこれを怠ったなどとして、被告B病院に対して損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、①ギラン・バレー症候群は、一般的に症状のピークを過ぎた後には回復に向かう疾患であり、回復期に入ってからある程度の時間が経てば、人工呼吸器を外すことが可能であることが多いと認められていることから、航空機輸送を含めた転送を行う場合は、人工呼吸器が外れるのを待ってから実施するのが望ましいこと。②転送の途中で異変が生じた場合に、付き添いの医師または看護師がそれぞれ察知できるようにするために、患者が自分の呼吸状態の変化を指で文字を書くなどとして、意思表示することができる状態になっていることが必要であること。意思表示ができない状態であれば、皮膚を通して動脈血酸素飽和度と脈拍数を測定するための装置であるパルスオキシメーターが必要であることを指摘しました。

しかし、転送当時の男性Aの状態は、自律神経の状態が安定しているとはいえず、息苦しさや動悸などの自分の呼吸の変化を意思表示することが不可能であったのにもかかわらず転送を行い、パルスオキシメーターを用意していなかった被告B病院には過失があると判断しました。

また、男性Aの心停止の原因は、転送中の酸素不足による可能性が高いことを認めて、パルスオキシメーターの機器が携行されていれば、男性Aの呼吸状態の悪化を医師が把握して適切な措置をとり、酸素供給不足の状態となる事態を回避できた可能性が高いと判断しました。

結果裁判所は、男性Aを転送したことと転送時の呼吸管理に過失があったことを認めて、被告B病院に対して約8700万円の賠償を命じました。

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