医師が糖尿病性腎症の検査や治療を怠ったことにより、腎機能を悪化させて人工透析を余儀なくされ患者が死亡した過失が認められた事件

判決東京地方裁判所 平成15年5月28日判決

糖尿病性腎症とは、糖尿病の合併症です。糖尿病になってすぐに起こるのではなく、長い間高血糖が続くことで腎臓の機能が低下してしまう病気です。

糖尿病性腎症の初期は尿にタンパクが出るくらいで、自覚症状はありません。しかし、症状が進行すると、浮腫みや息切れ、食欲低下といった症状が出始めます。さらに症状がひどくなると、透析治療が必要になります。

段階を経て病気が進行するため、できるだけ早期に発見し血糖値をコントロールするために食事療法や運動療法、薬の投薬など適切な治療を行うことが重要です。

以下では、医師が患者への検査や治療を怠ったことにより糖尿病性腎症を発症して死亡させた過失が認められて約2500万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

女性Aは9月に、息切れ、めまい、動悸の症状を訴えたため被告B病院の内科を受診したところ、高血圧、狭心症、高脂血症、痛風との診断を受けて、通院により治療を継続することになりました。

同日に実施された血液生化学検査の結果は、血糖値が289(参考値61~116)、尿素窒素24.5(参考値7.3~22.5)、クレアチニン1.6(参考値0.6~1.2)でした。

10月の診察の際に、医師は初診時の検査結果を確認して、女性Aがそれほど重くない糖尿病および軽度の腎機能障害が生じていると判断しました。また女性Aは、医師に対して7、8年前から中間糖尿病と言われていたと伝えていました。

翌年の4月の検査で、女性Aは糖尿病と診断され、受診のたびに空腹時血圧の検査が行われました。

6月、女性Aは深夜に交通事故に遭ったため救急車で被告B病院に搬送されて入院することになりました。その際に行われた検査の結果、女性Aの腎機能が悪化していることが判明し、8月から人工透析が導入されました。

その後、女性Aは9月末頃まで被告B病院に入院して人工透析治療を受け、退院後も週に3回通院をして人工透析治療を受けました。

11月以降は、自宅に近いC病院で人工透析治療を受けていましたが、約4年半後、女性Aは慢性腎不全により死亡しました。

原告らは、腎機能の悪化に対する検査を行う義務を怠ったなどとして、被告B病院に対して損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、初診時に実施された血液生化学検査の結果によれば女性Aには軽度の腎機能障害があったことを指摘しました。

そして、実際に被告B病院の医師は10月の検診時に、女性Aの血糖値、尿素窒素、クレアチニンの数値から軽度の糖尿病および軽度の腎機能障害が生じていると判断していることが認められ、また女性Aより7、8年前から中間糖尿病と言われていたとの申告を受けていることから、この申告と結びつけて考えれば、女性Aの腎機能障害が糖尿病を原因として生じているものではないかと疑い、糖尿病性腎症が悪化するかもしないと予見することは容易であったことを認めました。

しかし被告B病院の医師は、女性Aの糖尿病は軽いため肝機能検査は行わなくて良いと判断し、交通事故後に検査が実施されるまで尿素窒素やクレアチニンの再検査は行われず、糖尿病の進行速度を把握するために不可欠な血糖の検査も行わなかったのであるから、女性Aに対する検査や治療を怠ったと判断しました。

また、裁判所は慢性腎不全の原因は糖尿病性腎症であったことを認めて、女性Aに対して適切な検査や治療を行っていれば、人工透析を導入することはなかった可能性が高く、死亡時期も遅らせることが出来たと判断しました。

結果裁判所は、女性Aに対する検査義務を怠った過失があることを認めて約2500万円の損害賠償を命じました。

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