判決大阪地方裁判所 平成18年7月28日判決
くも膜下出血は、脳動脈瘤という血管の膨らみが突然破裂することによって起こります。
症状は出血量によって異なり、頭痛や吐き気、意識障害までのかなりの差があります。くも膜下出血が疑われた場合は、CT検査もしくはMRI検査を行って出血を確認し、判断のつかない場合は腰部から細い針を刺して髄液検査を行います。
くも膜下出血を発症すると死亡率は非常に高く30~40%程度といわれています。一度破裂した脳動脈瘤は、再び出血しやすく、再出血によって死亡したり、重い後遺症が残る可能性が高くなります。そのため、再出血の予防として早急に手術を行う必要があります。
以下では、医師がくも膜下出血を見落としたことにより患者に重度の後遺症が残存した過失が認められて約1億5000万円の賠償を命じた事件を紹介します。
男性Aは、1月13日頃から頭痛と関節痛を訴えたためB病院を受診しました。当初は風邪と診断されていましたが発熱が続き頚部の硬化が認められたため、B病院の医師は髄膜炎を疑い、被告C病院において治療を受けるよう勧めました。
1月19日、男性Aは被告C病院を受診して、髄膜炎が疑われることから即日入院することになりました。
入院後、男性Aの髄液を採取した結果、ヘルペス髄膜炎や細菌性髄膜炎を疑いました。医師は、髄膜炎の治療として抗生物質の投与を開始するとともに、頭部単純CT撮影検査を行い、脳浮腫の傾向があると判断して抗脳浮腫剤の投与も開始しました。
しかし、その後も男性Aは継続的に頭痛を訴え、発熱も認められたため、医師は、複数回にわたり座薬の投与を行いました。
1月21日、神経内科の医師が男性Aを診察して髄液検査を行った結果、肉眼的にキサントクロミー(髄液が黄色味がかった色調であること)が認められましたが、他の医師から先日行われた髄液検査において髄液採取に手間取り、出血があったと聞いていたので、その出血による影響と考えて異常所見はない判断しました。
また、これまでの検査所見や臨床経過などから、ウイルス性髄膜炎の可能性が高いと判断しました。その後、男性Aはウイルス性髄膜炎が軽快したとして、被告C病院を退院しました。
1週間後、男性Aは自宅において意識のない状態で倒れているところを母親に発見されて、被告C病院に搬送されました。頭部CT撮影検査において、くも膜下出血および右側頭葉硬膜下血腫が認められたため手術やリハビリを受けましたが、左上肢機能全廃、左下肢機能全廃の重度の後遺症が残存しました。
原告らは、1月19日の時点で男性Aに発生していたくも膜下出血を見落とした過失があるなどとして、被告C病院に対して損害賠償を請求しました。
裁判所は、髄液検査の結果においてキサントクロミーもしくは血液が混入している髄液が認められるかどうかが、くも膜下出血と髄膜炎を鑑別する重要なポイントであることを認めました。
その上で、1月19日および21日に認められたキサントクロミーは、くも膜下出血を疑わせる重要な徴表であり、キサントクロミーが確認されるのは出血から4~5日以降が多いとされていることから、検査で確認されたキサントクロミーは1月13日頃に発症したくも膜下出血によるものと指摘しました。
そして、キサントクロミーという結果が出た際に、くも膜下出血を確実な根拠を踏まえて否定する状況にはなかった場合は、くも膜下出血であることの可能性も疑い、脳神経外科医に紹介するなどとして、確定診断を進めるべきであったと判断しました。
結果裁判所は、鑑別診断を進めることを怠り、くも膜下出血を見落とした過失を認めて被告C病院に対して約1億5000万円の賠償を命じました。
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