救命救急センターである病院が重症患者の受入れを拒否したことにより患者が死亡したことについて、医師の応召義務違反が認められた事件

判決神戸地方裁判所 平成4年6月30日判決

医師は、「診察治療の求めがあった場合は、正当な事由がなければ拒んではならない」という「応召義務」が医師法で定められています。ただし、どんな時でも医師は患者の診察をしなければならないという意味ではありません。正当な事由があれば、診療を拒むことができるとしています。

正当な事由とは、主に①診療時間外の対応②専門外の疾患である場合③医療費不払い④患者の迷惑行為の4つの項目によって検討されています。

以下では、重傷を負った患者の受入れを拒否したことについて、応召義務に違反した過失が認められて200万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

男性Aは、普通自動車で走行中に反対車線を走行してきた普通自動車と正面衝突し、両側肺挫傷、右気管支断裂の傷害を受けたため、午後8時29分ころA病院に搬送されました。

A病院の医師は、男性Aを死亡する危険性の高い第三次救急患者と診断して、救急隊員へ救命救急センターへの搬送を指示しました。

救急隊員は、午後8時34分ころに消防局管理室を通して被告B病院に受入れが可能か否かを問い合わせたところ、被告B病院には当時13名の当直医がおり診療を拒否する正当な理由がないのに「今日は整形外科医師も脳外科医師もいない。遠いし、こちらでは取れません」と応答がありました。

午後8時39分ころ、C病院に男性Aの受入れを要請しましたが、手術中のため受け入れられないとの回答でした。

やむを得ず、午後8時48分ころにD病院へ受入れ要請の連絡をしたところ、ようやく受入れ可能との回答があったため、男性AはD病院へ搬送され午後9時13分ころに収容されました。

午前1時ころからD病院の医師が開胸手術を行いましたが、男性Aは呼吸不全により死亡しました。

原告らは、正当な理由がないのに受入れを拒否したことについて過失があるとして、被告B病院に対して損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、被告B病院が受入れを拒否して男性Aに損害を与えた場合には、被告B病院に過失があるという事実上の推定がなされるため、被告B病院は診療拒否を正当な理由と考えられる具体的事実を主張しない限り、損害を賠償する責任があると判断しました。

その上で、被告B病院には整形外科および脳外科の専門医がいなくても、外科医が救命担当医として在院していたことから、男性Aを受入れて医療を施すことが可能であったことを指摘して、診療拒否を正当と考えられる具体的事実は存在しないと判示しました。

結果裁判所は、受入れを拒否したことについて過失があることを認めて、被告B病院に対して200万円の賠償を命じました。

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