嚥下障害のある高齢者が食事中に誤嚥して死亡したことについて、看護師に看護上の過失が認められた事件

判決福岡地方裁判所 平成19年6月26日判決

嚥下障害とは、食べ物を上手に飲み込めない状態のことです。

嚥下障害は、加齢により嚥下する力が衰えると、飲食物の一部や口腔内の細菌などが気道の中に入り込み、誤嚥性肺炎を引き起こしたり窒息する危険性があるため、高齢の方にとって大きな問題となります。

誤嚥などによる窒息は、高齢者の不慮の事故で最も多い原因です。窒息すると呼吸ができなくなり、最悪の場合は命を落としてしまうため、食事中は高齢者に寄り添い、咀嚼状況や顔色を気にかけながら誤嚥、誤飲に注意する必要があります。

以下では、高齢者の患者が食事中に誤嚥して死亡したことについて、看護師に看護上の過失が認められて約2800万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

男性Aは、老人性認知症、前立腺肥大、高尿酸血症、高血圧の既往があり、介護老人保健施設に入所していましたが、食欲不振および発熱のため被告病院に入院することになりました。

被告病院に入院後、投薬治療を行ったところ発熱は治まりましたが、病院食を食べない状況が続いて食欲不振は改善しませんでした。

また、男性Aは歯の欠損が多く上下とも義歯を装着していましたが、義歯があっていなかったため歯科医の診察を受けて、抜歯したうえで上下義歯を新たに作成しました。

歯科医師は看護師に対して、現在の男性Aの口腔状態では誤嚥の危険性があるため上下の義歯を装着して咀嚼させるように指示しました。その際、看護師日誌には「左上歯銀歯グラツキあり、食事摂取時は必ず義歯装着とのこと。誤嚥危険大」と記載されていました。

その後、担当看護師が男性Aに夕食としておにぎりを提供しましたが、男性Aが義歯を入れると痛いと述べて拒否したため、義歯を装着しませんでした。

そして、看護師が病室を離れている間に、男性Aは、おにぎりを誤嚥して窒息し、心肺停止状態となり、蘇生処置が行われましたが心拍動が再開したものの意識が回復することはなく、9ヶ月後に呼吸不全にて死亡しました。

原告らは、男性Aの食事中に誤嚥がないか見守るべき注意義務を怠ったなどと主張して、被告病院(看護師)に対して損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、男性Aは食事の際に度々咽せていたことから嚥下機能に障害があったというべきであり、また事件前日の朝食時に牛乳を飲んで咽せたのを看護師が現認していたこと、誤嚥防止のために義歯を装着するよう歯科医師から指示を受けていたことを看護師は現認していたことなどを指摘しました。

その上で、看護師は一口ごとに食べ物を咀嚼して飲み込んだか否かを確認するなどとして、男性Aが誤嚥することがないように注意深く見守る義務があったことを認めました。

それにもかかわらず、看護師は男性Aの摂食および嚥下の状況を見守らずに、約30分間も病室を離れていたために、男性Aがおにぎりを誤嚥して窒息したことに気づくのが遅れたのであるから、被告病院(看護師)に過失があったと判断しました。

結果裁判所は、被告病院(看護師)に対して看護上の過失を認めて、約2800万円の賠償を命じました。

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