痙性斜頚を発症した患者に対して、当時先端的な治療であったアドリアシン注入術を行ったことについて医師の説明義務違反が認められた事件

判決大阪地方裁判所 平成20年2月13日判決

痙性斜頚とは、自分の意思とは関係なく、首や肩の周囲の筋肉が収縮し、無意識に首が傾いてしまう病気です。多くの場合、明らかな原因がなく発症します。

治療法として、薬物療法、ボツリヌス療法、外科治療、針治療などが行われます。しかし、薬物療法のみで改善することは難しいことが多いため、ボツリヌス療法が標準的治療とされています。

ボツリヌス療法とは、ボツリヌス菌という細菌が作る出すたんぱく質を有効成分とする薬を緊張している筋肉に直接注射して、首や肩の周囲の筋肉の緊張をやわらげる方法です。持続期間は3~4ヶ月となり、徐々に効果が切れてくるため、繰り返し治療を受け続ける必要があります。

以下では、痙性斜頚の患者に対して先端的な治療を行う際に、十分な説明を行わなかった過失が認められて約700万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

男性Aは、自動車同士の交通事故に遭い、痙性斜頚と診断され、治療のために被告病院を受診しました。

男性Aは被告病院に通院しましたが、痙性斜頚の症状は軽快しなかったため入院することになりました。そして、圧迫している血管を神経から遊離し、神経への圧迫を少なくして固定する手術を受けました。

しかし、その後も男性Aの症状に改善は認められず、むしろ増悪傾向を示すようになりました。

男性Aは、被告病院へ再入院しアドリアシン注入術(神経の末梢線維にアドリアシンを注入することにより、神経の過敏性を抑制して症状を改善させる療法)を受けましたが、痙性斜頚は改善されず、原因不明の発熱が認められるようになりました。

その後、男性Aは頭部CT検査により水頭症と診断されたため、水頭症の治療のために腹腔短絡術を受けました。

男性Aは被告病院を退院しましたが、左半身の四肢に痺れが発現し、その後、四肢が硬直状態に陥ったため被告病院に救急搬送されました。

そして、2度目の腹腔短絡術が実施されましたが、四肢麻痺は改善されず死亡しました。

原告らは、十分な説明を行わないまま、適応のないアドリアシン注入術を実施したため、男性Aは水頭症を発症して死亡するに至ったなどとして被告病院に対して損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、アドリアシン注入術は痙性斜頚において有効性が報告されていることや、高次医療機関で実施されていることから、被告病院が適応のない外科的治療を実施した過失があると認めることは出来ないと判断しました。

しかし、アドリアシン注入術を実施するにあたり、男性Aに対して手術の内容、危険性などの説明に加えて、アドリアシン注入術は、新たな治療法として発表されつつある先端的な治療であり、過去に症例のない新たな試みであったことから、具体的説明を行うことで、男性Aがアドリアシン注入術の内容や位置付けについて理解した上で、アドリアシン注入術を受けるかどうかを考える機会を与えるべきであったと認めました。

しかし、被告病院は男性Aに対してアドリアシン注入術に関して、手術の内容や術後の経過の見込みなどの説明を行ったのみで、アドリアシン注入術の成熟性や危険性など具体的な説明は行っていなかったと判断しました。

結果裁判所は、被告病院には説明義務違反を怠った過失があることを認めて約700万円の賠償を命じました。

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