患者がくも膜下出血を発症して死亡したことについて、医師が必要な診断を行わずに発症を見逃した過失が認められた事件

判決大阪地方裁判所 平成15年10月29日判決

くも膜下出血とは、脳の血管にできた動脈瘤が破裂することによって起きます。くも膜下出血は発症すると死亡率が50%と非常に高く恐ろしい疾患です。

典型的な症状としては、突然バットで殴られたような激しい頭痛を感じると言われており、その他に嘔吐や意識障害が現れます。

時には、軽い頭痛しか認められない場合もあるため、見逃されてしまうこともあります。突然発生する頭痛は大切な所見なので、積極的にくも膜下出血を疑うことが重要になります。

くも膜下出血が疑われた場合、CTによる検査が第一選択とされています。頭部CTを撮影して出血の存在を確認します。出血量が少ない場合は診断が難しく、腰部から細い針を刺入して髄液検査を行ったり、頭部MRIを撮影することもあります。

また、くも膜下出血は発症してから24時間以内に再出血を起こすことが一番多いと言われています。再出血を起こすと生命にかかわる確率が格段に上がるため、くも膜下出血は早期の診断と治療が重要になります。

以下では、医師がくも膜下出血の発症を見逃した過失が認められて約6900万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

男性Aは9月5日、激しい頭痛を訴えて自宅で嘔吐しました。翌日、起き上がることができないほど激しい頭痛が続いたため被告A病院を受診しました。

医師がMRI検査を実施したところ異常所見を認めず、血圧も正常で嘔吐が治まっていたことなどから、男性Aの頭痛はくも膜下出血によるものでなく、ストレスによるものであると診断しました。そして、内服の鎮痛剤を男性Aに処方して帰宅させました。

しかし、男性Aは同月7日、8日も頭痛が続きました。同月10日、症状が軽減したため会社に出勤して午後7時ころに帰宅しましたが、再び頭痛を訴えて休んでいました。

午後11時ころ、男性Aの妻が男性Aの様子を見に行ったところ、意識がなく呼びかけても反応しない状態になっていたためB病院に搬送されました。

男性AはB病院において頭部CT検査を行った結果、くも膜下出血と診断されましたが、脳圧が高いため手術ができる状態ではないと判断されました。

同月12日には脳死と診断され、同月27日に男性Aは死亡しました。

原告らは、医師が男性Aのくも膜下出血の発症を見逃した過失があるとして、被告A病院に対して損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、男性Aの臨床症状を踏まえて、9月5日に初回出血、9月10日に再破裂による再出血が発症したと認められるため、男性Aが9月6日に被告A病院の診断を受けた際には、くも膜下出血を発症していたと認めました。

その上で、くも膜下出血の確定診断をするためにはCT撮影が必須とされていることから、CT撮影を行わずに、くも膜下出血ではないと確定診断をつけることは認められず、自らCT撮影ができない場合は、CT撮影ができる医療機関に転医させるべきであると指摘しました。

しかし、被告A病院の医師は、男性Aにくも膜下出血に特徴的な所見である突発性で持続性のある頭痛や嘔吐を発症していたにもかかわらずCT撮影を行わずに、くも膜下出血ではないと診断してCT撮影の可能な病院へ転医させなかったことが認められるため、被告A病院の医師に過失があったことを認めました。

また、9月6日の時点でくも膜下出血と診断がされていれば、再出血することなく死亡することもなかったため、被告A病院の過失と男性Aの死亡との間には因果関係が認められると判断しました。

結果裁判所は、医師がくも膜下出血の発症を見逃した過失があることを認めて、被告A病院に対して約6900万円の賠償を命じました。

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