高齢患者に発症した褥瘡について、医師が適切な予防措置と治療を怠ったことによりMRSA感染症が生じて死亡を招いた過失が認められた事件

判決大分地方裁判所 平成21年3月26日判決 

褥瘡とは、一般的に床ずれと呼ばれています。寝たきりなどによって長時間同じ場所が圧迫されることで、皮膚がただれたり、傷ができてしまう状態のことをいいます。

褥瘡の生じる場所は、体格や寝ている体位によって様々ですが、体重のかかる骨の突出している部位で筋肉や脂肪の薄いところによく発症します。

褥瘡は症状によって4つのステージに分けることができ、放置しておくと皮膚が壊死して、脂肪や骨などにまで傷が広がり、そこから菌が入ると感染症を合併して死に至ることもあります。

そのため、日頃から体位変換をしたり皮膚の状態を観察するなど予防するとともに、褥瘡が発症した場合は、傷の状態によって塗り薬を使用し、ポケットと呼ばれる大きな穴洞があれば手術や薬剤で治療する必要があります。

以下では、褥瘡を発症した患者に対して医師が適切な予防措置と治療を怠った過失が認められて約1900万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

男性Aは、腰痛、下肢痛などの持病があり、被告病院に検査入院したところ、腰部脊柱管狭搾症、胸椎黄色靭帯骨化症と診断されました。そこで、2月4日に胸椎および腰椎の椎弓切除手術を受けました。

ところが、術後から29時間後に男性Aの右腰背部に布製絆創膏が紛れ込んでいるのが確認されました。2月8日、仙骨部と右腸骨背部に褥瘡が認められました。

同月22日には、仙骨部のガーゼ汚染が認められ、褥瘡周囲が白色化し、同月23日には仙骨部に悪臭と浸出液が確認されました。3月1日までには空洞部分の形成も確認されました。

同月18日に実施された褥瘡部の培養検査でMRSAが検出され、4月5日にはMRSAおよび緑膿菌、その後も複数回にわたり培養検査および咽頭粘液培養検査が行われましたが、その都度MRSAが検出されました。

なお、男性Aは術後から37度台の微熱が継続し6月29日には39度台に上昇し、その後も発熱は継続的に認められました。

7月18日、褥瘡部から血膿汁によるガーゼ汚染が多量にあり、緊急にポケット部分を含めた懐死した組織を除去する治療を行いましたが、同月20日には多臓器不全が認められ、同月23日に男性Aは死亡しました。

原告らは、褥瘡に対する治療に過失があったなどとして、被告病院に対して損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、仙骨部に生じた褥瘡は、男性Aの右腰背部に布製絆創膏が紛れ込んで、それによる圧迫を原因として発生したものと認めました。

その上で、被告病院は手術終了から29時間にわたってその事実を見逃し、局所に長時間圧力を加えた結果、仙骨部に褥瘡を発生させた過失があると判断しました。

また、褥瘡は感染症を合併することがあり、重症化すると敗血症を経て死亡する恐れがあることが認められるため、医師は褥瘡部から重篤な感染に至る可能性を念頭に置いて診療を行うべきであることを指摘しました。

しかし、被告病院の医師は、男性Aに発熱が続き、感染症状が軽減する様子はない状況でありながら、血液検査などで感染症の状態を確認せずに、抗生剤の投与も一切行っていなかったのであるから、感染症に対する適切な検査および治療を怠った過失があると判断しました。

そして、医師が感染症に対する注意義務に違反していなければ、病態が重篤化することはなく、死亡することも避けられたと判断しました。

結果裁判所は、褥瘡に対する予防措置および治療方法に過失があったことを認めて、被告病院に対して約1900万円の賠償を命じました。

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