強直性脊椎骨増殖症の手術後に患者が呼吸不全により死亡したことについて、医師が術後の呼吸状態の観察を怠った過失が認められた事件

判決名古屋地方裁判所 平成19年1月31日判決

強直性脊椎骨増殖症とは、背骨の前の靭帯の骨化により、背骨を含む全身の関節が固くなる病気です。50歳以上の男性に発症することが多いといわれています。

多くの場合は身体が固くなるなどの症状のみで、日常生活上困ることは殆どありません。

しかし、頚椎や腰椎まで進展すると食事が飲み込みにくくなる嚥下障害や、声帯が正常に振動しなくなり声がかすれるなどの障害が生じることがあります。その際は、手術で骨化巣を取り除く手術を行います。

以下では、強直性脊椎骨増殖症の患者が手術後に呼吸不全により死亡したことについて、医師の経過観察に過失があったことが認められて約3600万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

男性Aは、強直性脊椎骨増殖症の治療のために被告病院で頚椎骨切手術を受けることになりました。

11月11日、午後2時半ころから午後4時半まで手術が行われ、男性Aはナースステーションに隣接するリカバリールームに収容されました。

しかし、午後9時ころから男性Aは苦しいと訴え何度も起き上がろうとしました。

また、血圧が上昇するとともに、体動が徐々に激しくなり不穏状態に陥ったため、看護師が口腔、鼻腔から痰の吸引を試みましたが上手くいきませんでした。

そのため、看護師らが既に帰宅していた担当医に電話をし、ベッドを20度上げることと、興奮状態を抑える薬を投与する許可をもらい実施しました。

しかし、男性Aの症状は改善することなく、呼吸状態が深い吸気と短い呼気というように変化し、午後9時25分ころ呼吸停止しました。

看護師や当直医らが蘇生術をおこなったものの、男性Aは午後11時50分に死亡が確認されました。

原告らは、術後に適切な経過観察が行われていなかった過失があるなどとして、被告病院に対して損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、男性Aの死因について手術部位の出血が凝血塊となり、これが周辺の反回神経を圧迫、麻痺させて、声帯が閉塞したことにより呼吸困難が生じたと認めました。

そして、男性Aに呼吸困難が生じたのは、遅くとも体動が徐々に激しくなった午後9時ころであったと認めました。

その上で、被告病院の医師は看護師に対して体動の原因を明らかにするための指示を与えることと、その後の呼吸困難などの急変に対応できるように自らが男性Aの下へ向かうか、当直医に男性Aの所へ行くよう指示する必要があったことを指摘しました。

しかし、担当医は看護師から連絡を受けた際、男性Aの体動が痰詰まりと術後の通常の不穏と即断をして、ベッドを20度上げることと、興奮状態を抑える薬を投与する許可をするにとどまったものであるから、男性Aに対する経過観察において注意義務を怠った過失があると判断しました。

また、医師が看護師に対して適切な指示や、急変における注意義務を怠っていなければ、男性Aを救命できた可能性が高いと認めて、医師の過失と死亡との間に因果関係があると判断しました。

結果裁判所は、男性Aの術後の経過観察に過失があるとして被告病院に対して約3600万円の賠償を命じました。

医療過誤のご相談受付

まずは専任の受付職員が丁寧にお話を伺います。

0120-090-620
  • 24時間予約受付
  • 年中無休
  • 全国対応

※精神科、歯科、美容外科のご相談は受け付けておりません。 ※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。