患者が胃がんにより死亡したことについて、医師が造影検査の結果を踏まえて内視鏡検査および生検の可能な医療機関に転院させるべき注意義務を怠った過失が認められた事件

判決名古屋地方裁判所 平成19年7月4日判決

胃がんとは、胃壁の内側に発生するがんです。中高年に発症することが多く、特に50代から急増します。

初期の胃がんは、自覚症状がほとんどありません。進行するにつれて、胃の痛みや不快感、胸やけ、食欲不振などの症状が見られます。しかし、どれも胃がん特有の症状ではなく潰瘍や胃炎でも見られるため、検査をしなければ診断は出来ません。

胃がんかどうかを確定するための検査では、造影検査(バリウム検査)や内視鏡検査が行われます。

内視鏡検査は、造影検査だけでは分からないような、組織の隙間などの細かな場所までしっかりと観察でき、さらに「がん」が疑われたら、病変の組織を生検して、病理診断によって「がん」かどうかの確定診断を付けることができるため、初期の胃がんについて早期発見・早期治療が期待できます。

以下では、胃がんの疑いがある患者について、検査結果を踏まえて内視鏡検査の可能な医療機関に転院させる義務を怠った過失が認められて、約2000万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

男性Aは、胃部に不快感があり空腹時のような感じであること、胃が重いことなどを訴えて被告B病院を受診しました。

医師は、潰瘍、炎症または悪性病変がある可能性を考えて、バリウムを使用した造影検査を行いました。

検査の結果、胃各部の短縮が認められ、胃潰瘍の瘢痕化の疑いがありましたが、医師会の胃がん検診読影会に画像を持参して、他の医師の意見を聞く旨、男性Aに説明を行い消化器症状の薬を処方しました。

医師は、読影会において、男性Aの造影検査の画像を参加医師らに提示したところ、潰瘍の可能性が高いが経過観察が必要であるとの意見であったため、男性Aに対して2週間後に再来院するように伝えました。

その後、男性Aは複数回にわたり被告B病院にて診察を受けましたが、カルテには胃部に関する記載はありませんでした。

7カ月後、男性Aは蕁麻疹を発症したためC病院において診察を受けました。そこで医師が内視鏡検査を実施したところ、胃がんが発見されました。

その後、胃全摘術が試みられましたが、既に手遅れの状態となっており、胃を切除せずに化学療法を行うこととしました。

しかし約半年後、男性Aは胃がんにより死亡しました。

原告らは、造影検査の結果を踏まえて、内視鏡検査を実施するか、内視鏡検査ができる他の医療機関に転院させるべき注意義務を怠ったとして、被告B病院に対して損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、造影検査の所見から、がんの存在が強く疑われることを認めました。

その上で、①男性Aは被告B病院診察時に「胃部に不快感があり空腹時のような感じであること」「胃が重い」などといった胃がんの場合に起こり得る症状を訴えていたこと②男性Aは造影検査当時、満50歳で胃がんの好発年齢と言われる年代であったこと③胃がんは治療開始時のステージが予後に直結していること④本件造影検査当時、内視鏡検査および生検は一般に普及した検査方法であったことなどを考慮すると、被告B病院の医師は、造影検査の結果を踏まえて、男性Aに対して内視鏡検査および生検を含む精密検査を行う義務があり、被告B病院には精密検査を行える機器がなく、自ら検査を行うことが出来ない状況であったのであるから、男性Aに対し精密検査を行える医療機関を紹介して受検するよう指導すべき義務があったと判断しました。

そして、被告B病院がこれらの義務を尽くしていれば、男性Aが死亡した時点で生存していた可能性は高かったと判断しました。

結果裁判所は、精密検査が行える医療機関に転院させるべき注意義務を怠ったことを認めて、被告B病院に対して約2000万円の賠償を命じました。

医療過誤のご相談受付

まずは専任の受付職員が丁寧にお話を伺います。

0120-090-620
  • 24時間予約受付
  • 年中無休
  • 全国対応

※精神科、歯科、美容外科のご相談は受け付けておりません。 ※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。