医師が脳血栓塞栓症のリスクがある患者に対して予防措置を怠ったことにより、肺血栓塞栓症を発症して死亡した過失が認められた事件

判決大阪地方裁判所 平成21年9月29日判決

肺血栓塞栓症とは、心臓から肺に血液を送る血管に血のかたまりが詰まって、突然の息切れ、胸の痛みが現れ、重症の場合は心停止となる命に関わる危険な疾患です。

肺血栓塞栓症は、一般的に「エコノミー症候群」と知られており、その発症の要因として「血流が停滞する」「水分が十分に取れない」等が挙げられます。

また、肥満、妊娠、寝たきりの状態、免疫力が低下している場合には特に注意が必要であり、弾性ストッキングの着用や弾性包帯などを使用して血栓ができることを予防することが重要です。

以下では、医師が肺血栓塞栓症の予防措置を怠った過失が認められて約150万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

女性Aは、自宅内で昏倒しているのを帰宅した夫に発見されて、救急車で被告病院に搬送されました。

被告病院に搬送された女性Aの状態は、重度の右片麻痺で失語症も認められました。CT検査が行われた結果、左被殻からの出血および血腫が認められたため、医師は女性Aの右片麻痺および失語を、高血圧性脳内出血を原因するものと診断し、被告病院に入院することになりました。

女性Aは入院当時、身長が155㎝程度であるのに対し、体重は90㎏程度あったため、医師は女性Aやその家族らに高度肥満のため感染症や肺塞栓のリスクがあることを説明しました。

しかし医師は、女性Aのような高度肥満の体型の患者に適応するサイズの弾性ストッキングは存在しなかったため、弾性ストッキングや弾性包帯の使用を考慮しませんでした。

女性Aは、早期社会復帰を目的として3日後に定位血腫除去手術を施行することを予定されていましたが、入院から2日後の夜中に無呼吸状態が出現して容態が急変したため、医師が気道確保や心臓マッサージを行いましたが女性Aは死亡しました。

原告らは、肺血栓塞栓症を予防するために、入院時に弾性ストッキングもしくは弾性包帯を着用させる義務を怠った過失があるなどとして被告病院に損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、女性Aの死因が肺血栓塞栓症であることを認めました。

その上で、女性Aは脳卒中患者であり肥満という肺血栓塞栓症を発症するリスクがあったこと、医師も女性Aらに対して肺塞栓症のリスクを説明してしたことから、医師は女性Aが肺血栓塞栓症を生じるリスクを予見することが可能であったことを認めました。

そして、当時の肺血栓塞栓症の予防法は弾性ストッキングもしくは弾性包帯の着用が医療水準になっていたことからすると、医師らは女性Aに対して肺血栓塞栓症の予防として、弾性ストッキングまたは弾性包帯を着用させなければならない義務を負っていたと判断しました。

また、医師が予防措置を行っていた場合、肺血栓塞栓症を発症せず死亡もしなかった可能性は相当程度存在すると認められました。

結果裁判所は、肺血栓塞栓症の予防措置をとらなかった過失を認めて、被告病院に対して約150万円の賠償を命じました。

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