判決大阪地方裁判所 平成21年11月25日判決
頚椎後縦靭帯骨化症(OPLL)とは、脊髄の前の方にある後縦靭帯が厚くなり骨に変わる難病指定されている病気です。これが神経を圧迫すると、神経麻痺が生じます。そして、手や首が動かしにくくなったり、歩きにくいなどの症状が現れます。
病気の進み方は患者さんによって様々のため、慎重な経過観察を行いながら保存的療法を行います。しかし日常生活に不便を覚える場合は、手術が必要となります。
手術は、後ろ側のうなじを切開する後方法、首の前を切開する前方法があります。
後方法は、脊柱管を広げる手術で前方法に比べて手術時間が短く、合併症が少ないと言われています。前方法は、骨化巣の摘出もしくは浮上させて骨を移植する難易度の高い手術です。
いずれの手術を選択するかは、骨化している部分の範囲や合併症の有無、CTやMRIの画像検査などを総合的に判断して決定します。
以下では、後縦靭帯骨化症除去前方除圧術を施行した際に、除圧幅が狭すぎた注意義務違反が認められて約1770万円の賠償を命じた事件を紹介します。
男性Aは、手がしびれ、握力が低下し、歩行時に右足を引きずるなどの不自由があったことから被告病院を受診して、頚椎後縦靭帯骨化症(以下、OPLLという。)と診断されました。
医師は男性Aに対して第4頚椎から第7頚椎のOPLL除去前方除圧術を行い、骨化巣10㎜幅での部分切除をしました。
手術後、男性Aは両下肢麻痺および両上肢の運動障害が生じていましたが、医師は一過性の脊髄循環障害であると考え、炎症をしずめる薬を投与しました。しかし、改善の傾向がなく麻痺の進行が認められました。
3日後、医師は男性Aに対して第3頚椎から第4頚椎のOPLL除去前前方除圧術を行い、第4頚椎で12~13㎜、第5頚椎で14~15㎜、第6頚椎で10~11㎜、第7頚椎で8㎜の幅で切除しました。
しかし、骨化巣は部分的に摘出されたため残存している部分があり、男性Aは手術後に四肢麻痺により重篤な後遺障害が生じました。
その後、リハビリテーションが行われましたが、男性Aの状態は変わらず肺炎により死亡しました。
原告らは、医師が手術の際に手技を怠った過失があるなどとして、被告病院に対して損害賠償を請求しました。
裁判所は、ガイドラインに基づいて骨化巣を摘出する手術を行う場合、除圧幅は20㎜以上広げることが目安の一つであることを指摘しました。
そして、ガイドラインは平成17年に作成されたものではあるが、除圧幅に関する部分は本件手術時に既に発表されているものであるため、本件手術時についても除圧幅の目安は20㎜以上であったことを認めました。
その上で、医師が20㎜以下の幅で骨化巣を切除した理由は、切除した部分に移植する人工椎体の幅が13㎜であったので人工椎体が入れば除圧幅の狭さは問題ないというものであったことから、合理性のある理由とは言い難いと判断し、男性Aは除圧幅が狭すぎたことにより骨化巣が残存して神経損傷が生じて四肢麻痺の症状が残存したと認めました。
結果裁判所は、後縦靭帯骨化症除去前方除圧術において除圧幅が狭すぎた過失を認めて、被告病院に対して約1770万円の賠償を命じました。
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