呼吸不全により死亡した患者の死因について、脳梗塞に由来する虚血性機能不全による急激な呼吸不全であると認められて病院側の対応に過失はないと判断された事件

判決東京地方裁判所 平成17年11月22日判決東京高等裁判所 平成21年4月28日判決

脳梗塞とは、脳の血管が詰まってしまい、脳の細胞に酸素や栄養を送ることが出来なくなって細胞が死んでしまう疾患です。

脳梗塞の主な症状は、運動障害、言語障害、感覚障害、視覚障害などです。

重症の場合は、意識障害が生じることもあります。その際は、舌の根元が気管の入り口に沈んで気道が塞がれやすくなり、痰もたまりやすくなるため気道を確保したり、自力で呼吸ができなくなった重症の人には、一時的に人工呼吸器を使用する場合もあります。

脳梗塞は治療が早ければ、後遺症を残さず脳を救える可能性が高いため異変を感じたらできるだけ早い受診が重要となります。

以下では、呼吸不全により患者が死亡したことについて、原審において病院側の過失が認められたものの、控訴審で呼吸不全の原因は脳梗塞による急激なものであったと判断され、原審の請求が棄却された事件を紹介します。

事案の概要

女性Aは、平成7年から慢性腎不全により血液透析のために被告病院に通院していました。

なお、女性Aには甲状腺機能低下症、高血圧症、脳梗塞などの既往歴がありました。

平成9年11月、女性Aは左半身が動かなかったことから被告病院に搬送されました。CT検査の結果、右視床出血による左不全片麻痺と診断され緊急入院することになりました。

同年12月、看護師が他の患者の巡回からナースステーションに戻ったところ、女性Aの呼吸状態を管理していた監視モニターのアラーム音が鳴っていることに気づき病室に赴いたところ、女性Aに自発呼吸がなかったため心臓マッサージおよび駆け付けた医師により気管内挿管やボスミンを注射しましたが、心拍は回復せず女性Aは同日死亡しました。

原告らは、女性Aの呼吸不全に対する救命措置を怠った過失があるなどとして被告病院に対して損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

【原審】

裁判所は、女性Aの死因は気道閉塞による呼吸不全であることを認めました。

その上で、女性Aは入院中に無呼吸になる状態がたびたび見られ、呼吸状態が不安定な状態であったにもかかわらず、看護師はナースステーションを不在にしてアラーム音が鳴り始めて30分も放置していたことが認められるため、被告病院は女性Aに対しての監視体制に過失があると判断しました。また、アラーム音が鳴り始めて30分間放置されるという過失がなければ、女性Aは早期に処置を受けることができ、生命を維持することができたと判断しました。

結果裁判所は、被告病院の看護体制に過失があったことを認めて約2200万円の賠償を命じました。

【控訴審】

被告病院は、女性Aの死因は呼吸を司る脳幹部に脳梗塞が生じて虚血性機能不全による急激な呼吸不全であり、アラーム音によって直ちに女性Aの容態の急変に気づき適切な処置を施していたとしても、短期間の延命の効果しかなく女性Aの死を回避することは出来なかったと主張をして控訴しました。

裁判所は、女性Aが長期にわたり血液透析を受けていたこと、高血圧症、脳梗塞などの既往歴があったこと、入院後の脳病巣は右視床出血、左中側回転出血であること、女性Aの脳幹部は長く浮腫状態に置かれていて不可逆的な変化が進行していたと認められることなどからすれば、女性Aは脳血管障害を再発する蓋然性が高かったことを認めました。

その上で、女性Aの死因は被告病院の主張のとおり、呼吸を司る脳幹部に脳梗塞が生じて虚血性機能不全による急激な呼吸不全であり、原告らが主張するような過失は認められないと判断しました。

また、看護師がアラーム音を直ちに気づかなかったことに過失は認められるが、この過失と死亡との間に因果関係は認められないとして、結果裁判所は原審の判決を棄却しました。

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