白内障手術の際に、医師が誤って患者の眼球周辺部位に強膜プラグを残存させたことにより、患者が精神的ショックを受けて眼球部位に違和感を覚えるに至った過失が認められた事件

判決東京地方裁判所 平成22年8月30日判決

白内障とは、水晶体が白く濁って視力が低下する病気です。白内障は加齢とともに発症する病気で、80歳代で発症する確率はほぼ100%といわれています。

主な症状は、ぼやける、かすむ、光をまぶしく感じる、目が疲れやすいなど様々です。

白内障の発症初期は点眼薬での治療が有効ですが、症状が進行すると失明する恐れがあるため手術が必要となります。手術は、濁った水晶体を超音波で砕いて取り除き(白内障超音波乳化吸引術)、代わりに人工の水晶体を挿入します(眼内レンズ挿入術)。

白内障の手術の危険性はほとんどありませんが、手術が1回で終わらないことや、術後に眼が細菌感染して炎症を起こすリスクなどがあります。

以下では、白内障手術を行った際に、医師が患者の眼球周辺部位に強膜プラグを残置させた過失が認められて70万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

男性Aは、他院で左眼が白内障であると診断されたため、白内障の手術を受ける目的で被告B病院を受診しました。

平成6年3月8日、被告B病院で白内障超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を受けました。しかし術後、男性Aの視力は低下し硝子体出血が見られました。

そこで被告B病院の医師は、男性Aに対して被告C病院を紹介して受診するよう勧めました。

男性Aは被告C病院を受診して、眼球の奥にある血管・網膜・視神経を調べる検査を受けましたが、左眼に網膜剥離は認められず、硝子体出血の量も多くなかったので、保存的に経過観察を行うことになりました。

しかし、平成8年2月14日に男性Aは「全然見えなくなった」と訴えたため被告C病院を受診したところ、男性Aの左眼視力は悪化し、線維血管増殖がみられ、それに伴い硝子体出血が増強していたほか、牽引性網膜剥離を疑う所見が現れていました。

そこで、被告C病院の医師は、3回にわたり硝子体切除などの手術を行いましたが、男性Aは3回目の手術後に失明に至りました。また、被告C病院の医師は3回目の手術の際に、強膜プラグを紛失し眼球周囲組織内を精査したものの、発見できなかったため術野外にあるものと判断して手術を終了しました。

平成18年8月ころ、男性Aが他院で頭部レントゲン撮影を行ったところ、胸膜プラグが男性Aの眼球周辺部位に残置していることが判明しました。

原告らは、被告B病院については術中の手技による過失や説明義務違反、被告C病院につては必要な手術を3回にわたって行った過失や男性Aの眼内に強膜プラグを残置した過失などがあるとして、被告B病院および被告C病院に対して損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、被告B病院に過失はないと判断しました。

しかし被告C病院については、強膜プラグは3回目の手術の際に残置されたものであることを認めました。その上で、手術に使用する器具を適切に管理し、患者の体内に残置しないということは、医師に課された基本的な義務であることから、被告C病院の医師はこの義務を怠って、男性Aの眼球周辺部位に強膜プラグを残置させた過失があると判断しました。

さらに、被告C病院の医師は、強膜プラグの紛失に気付いた際に、手術中に使用していた綿棒に付着したかもしれないなどと考えたのもかかわらず、綿棒を捨てたごみ箱を捜索することもせず、男性Aに対して左眼のエコー検査を実施して眼球内を検索したのみで、更に頭部のレントゲン撮影を実施して眼球周囲を検索することはしていないことが認められるため、十分な措置を講じたとは言い難いと判断しました。

また、男性Aは強膜プラグが自身の眼球周辺部位に残置していることを知り強い精神的ショックを受け、眼球部位がごろごろするような違和感を覚えるに至ったことが考えられるため、強膜プラグを残置した過失と男性Aの精神的苦痛との間に因果関係があると認めました。

結果裁判所は、男性Aの眼球周辺部位に強膜プラグを残置した過失を認めて、被告C病院に対して70万円の賠償を命じました。

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