ニューモシスチス肺炎の患者が死亡したことについて、医師が誤って常用量の5倍の薬剤を処方した過失と、調剤および監査業務行った薬剤師が医師から指示された処方内容について確認を怠った過失が認められた事件

判決東京地方裁判所 平成23年2月10日判決

ニューモシスチス肺炎とは、免疫力が弱っている際にカビの一種が肺に感染して起きる病気です。

症状としては、発熱、痰が出ない乾いた咳、呼吸困難などがあります。

ニューモシスチス肺炎が疑われる場合は、血液検査や画像検査、喀痰検査などによって診断され、発症が確定した際は、原因となるカビに対する抗菌薬の服用または点滴が行われ約3週間の治療が必要とされています。また、ニューモシスチス肺炎は適切に治療を行えば、一般的に予後は良好であるといわれています。

以下では、医師がニューモシスチス肺炎の患者に対して、常用量の5倍の量の薬剤を投与したことと、薬剤師らが調剤の際に常用量などの確認を怠った過失が認められて約2300万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

男性Aは、平成7年4月に被告病院にて肺腺癌であると診断されたため入院することになりました。同年7月には退院しましたが、同年8月に肺癌が再発し、被告病院に再入院しました。

同年10月、男性Aにニューモシスチス肺炎が併発したため、ベナンバックスを投与することとなりB医師がベナンバックス300㎎を1日3回投与する旨の処方箋を作成しました。

そして、まずC薬剤師が3日分の調剤を行い、次にD薬剤師が1日目分と2日目分の調剤監査、E薬剤師が3日目分の調剤監査を行いました。

同月29日よりベナンバックスが投与開始されましたが、同月31日、男性Aは血圧が低下し意識障害が出現しました。

医師らは、消化管出血による血圧低下を疑い輸血をして経過観察を行っていましたが、男性Aの症状に改善がみられなかったため、疑問に感じた担当看護師が呼吸器科の医師に相談をして、薬剤量が適切かどうかなど診療内容の確認を行った結果、ベナンバックスが本来の投与量の5倍投与されていることが判明しました。

以降、ベナンバックスの投与は中止されましたが、同年11月10日に男性Aは死亡しました。

原告らは、被告病院、処方箋を作成した被告B医師、被告B医師の上級医ら、調剤を行った被告C薬剤師、調剤監査を行った被告D薬剤師および被告E薬剤師らに対して、それぞれ過失があるなどとして損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

ベナンバックスを処方した被告B医師の過失については、争いがなく過失が認められました。

さらに、裁判所は薬剤師についても、医師から指示された通りに薬剤が調剤されているかを確認するだけではなく、その用法および用量が適正か否か、相互作用などについても確認し、疑問がある場合には処方した医師などに問い合わせて照会する注意義務があることを認めました。

その上で、ベナンバックスは普段調剤することが少なく不慣れな医薬品であり、劇薬指定がされ重大な副作用を生じる医薬品であったことから、薬剤師らはベナンバックスの説明書などで用法および用量を確認するなどとして、処方箋の内容を確認し、本来の投与量の5倍もの容量を投与することについて被告B医師に対して確認するべきであったのにもかかわらず、これを怠った過失があると判断しました。

また、ベナンバックスの過剰投与と男性Aの死亡との間に因果関係があることを認めました。

結果裁判所は、薬剤の投与および調剤について注意義務を怠ったとして、被告病院、被告B医師、被告C~E薬剤師らに対して約2300万円の賠償を命じました。

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