大腸癌を痔であると誤診したことにより癌の発見が遅れて患者が死亡したことについて、医師が癌の存在を疑い検査の必要性を説明すべき義務を怠った過失が認められた事件

判決東京地方裁判所 平成21年3月12日判決

大腸癌とは、大腸(結腸・直腸・肛門)に発生するがんですが、大腸癌の主な症状は、血便、便秘、下痢、腹痛等です。

早期の段階ではほとんど自覚症状がなく、ある程度進行してから症状が現れます。最も頻度が高い血便は、痔などの病気でも起こることがあるため放置してしまい癌が進行する恐れがあります。血便の違いから痔と大腸癌を見分けることは難しいため、大腸内視鏡などで大腸全体の検査を行う必要があります。

末期になると、腸管からの出血とそれに伴う腸閉塞、他臓器への転移を引き起こすことがあるため、早期に発見して適切な治療を行うことが重要です。

以下では、大腸癌の発見が遅れて患者が死亡したことについて、医師が癌の存在を疑い検査の必要性を説明すべき義務を怠った過失が認められて約5700万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

男性Aは、平成13年2月に被告病院を受診して2、3ヶ月前から軟便時に出血がある旨訴えました。

医師は、男性Aに対して直腸診および肛門鏡検査を行った結果、内痔核と診断して軟膏および内服薬を処方しました。

同年3月に2回、男性Aは被告病院を受診して、引き続き軟便時に出血があることを訴えましたが、医師は内痔核からの出血が継続している可能性が高いと考えて、「痔が良くなってもさらに出血があるのであれば、もっと上からの出血を疑わなければならないので、検査をやりましょう」と説明をし、前回同様の軟膏および内服薬の処方をしました。

同年4月17日、男性Aは再び被告病院を受診して、便器が赤くなるほどの出血があったが、痛みはなく、その後は調子がいいと医師に述べ、軟膏および内服薬の処方を受けました。

しかし男性Aは、その後も出血が続いていたため、平成14年3月5日に被告病院の総合健診センターを受診しました。そこで、便潜血陽性と鉄分の減少を指摘されたため、同月19日に被告病院の外来を受診した結果、大腸癌に罹患していると診断されました。

同年4月、癌の切除術およびリンパ節の切除術を受けましたが、腫瘍はステージ3bと判断されました。

その後、多発性肝転移が指摘され入退院を繰り返し、化学療法などが行われましたが、平成17年1月に男性Aは転移性肝腫瘍による肝不全を死因として死亡しました。

原告らは、癌の存在を疑い、大腸内視鏡検査などを行わなかった過失があるなどして被告病院に対して損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、内痔核による出血は治療によって早期に止まる可能性が高いのに、男性Aは1ヶ月以上出血が継続していることから、内痔核以外の疾患を疑うべき状況であったことを認めました。

また、出血は進行癌で最も多い自覚症状であることが認められるため、被告病院の医師は男性Aに対して、出血原因の鑑別の必要性があること、鑑別のために速やかに検査を実施する必要性があることを説明し、大腸内視鏡検査などの予約を勧めるべき注意義務があったと判断しました。

しかし、被告病院の医師は男性Aに対して出血が継続した場合には内視鏡検査などをするよう強く勧めたと認めるに足りる証拠はなく、仮に大腸癌の可能性があり、速やかに検査を実施する必要性があることを説明していたのであれば、平成14年3月5日により早く被告病院を訪れたと考えるのが合理的であると指摘しました。

また、平成13年4月17日ころまでに大腸内視鏡検査などを勧めて大腸癌が発見されていれば、男性Aの救命は可能であったことを認めました。

結果裁判所は、男性Aに対して癌の存在を疑い、大腸内視鏡検査などの必要性を説明すべき義務を怠ったとして被告病院に対して約5700万円の賠償を命じました。

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